振動障害
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症状
2008年度の研究を基に作成された情報です。

末梢神経障害

1)症状

 末梢神経障害では指のしびれや触覚、痛覚、温度覚の知覚の低下などがみられます。これらは寒冷により増悪します。したがって、末梢循環障害の症状と一部オーバーラップする点がありますので、明確な区分は困難な例もあります。問診時に手指が冷えていない時の自覚症状の状況を聞き取ることも重要な点であります。
 末梢神経障害の病態は、長期間の振動曝露による皮膚の知覚受容体、小神経終末および末梢神経繊維の変性によるものと考えられます。末梢神経繊維の変性は形態学的、電気生理学的に研究されています。 手のしびれは頚椎性疾患(頚部脊椎症性神経根症、頚部脊髄症)、胸郭出口症候群、糖尿病、扼性神経障害等の疾患で起こりますので、鑑別診断が極めて重要であります。病気ではありませんが夜間異常感覚といったものにも注意する必要があります。日常診療で頻度の高いのはなんといっても頚部脊椎症性の疾患です。中年以降に手のしびれを訴えた場合、診察時には必ず頚部脊椎症に関して詳しく検査すべきであり、絞扼性神経障害にも注意を払うべきであります。また、上腕上顆炎でも患者は手がしびれると訴えることがありますので注意が必要です。
 振動障害に由来する痺れや感覚鈍麻の治療効果は後述するように期待できませんが、他疾患による痺れや痛みは治療効果が期待できますので、患者のQOLを配慮すると、鑑別診断が重要であることは理解できると思います。
 また、振動障害では尺骨神経障害・正中神経障害などの絞扼性神経障害が起ることは稀ではありません。ことに、正中神経障害はしばしば観察できます。しかし、橈骨神経が障害されることはほとんどありません。尺骨神経が障害された場合には環指と小指にしびれ・感覚鈍麻といった自覚症状が現われてくると共に、指の開閉運動が悪くなり、指と指との間で紙を挟む力が低下してきます。これを調べる方法としてペーパーテストがあります。また親指の内転筋力が弱くなるため、親指と示指で紙を挟み力を入れるようにさせると、悪い方の親指の関節が屈曲します。これをフローメンのサイン陽性と言います。このような状態になれば骨間筋や小指球筋の萎縮もみられます。このような手を鷲爪手といいます(図16参照)。症状は環指、小指の知覚障害、環指、小指の鷲爪変形、骨間筋及び小指球筋の萎縮であり、上述のペーパーテスト陽性、フローメンのサインが陽性となります。肘部とか手掌部の尺骨管で神経が圧迫されて障害が現われます。肘部に障害がある場合を肘部管症候群、尺骨管に障害がある場合を尺骨管症候群といいます。尺骨神経の運動神経線維および知覚神経繊維の伝道速度検査が必須となります。
図16.尺骨神経麻痺による鷲手
右手の骨間筋の萎縮がみられる。
図1

2)振動障害による末梢神経障害の検査

 一次健康診断としては、常温下での手指等の痛覚や振動覚テストがあり、二次健康診断としては、手指を10℃の冷水に10分間、浸漬してから痛覚や振動覚テストの回復過程を調べます。他に温・冷覚、末梢神経伝導速度検査も行われます。どの神経支配領域に知覚異常があるかを調べることが、鑑別診断を行う上で極めて大切です。
 感覚閾値測定では注意を集中する必要があり、静寂な環境下で行われるべきであり、さらに最近の研究では測定時の皮膚温が閾値に与える影響についても指摘しています。

3)振動覚検査 振動覚閾値検査

 振動動曝露により振動覚が低下することが知られています。振動覚閾値検査は、振動障害の早期診断に広く用いられている検査法です。振動刺激の受容体は皮膚のパチ二―小体であり、刺激は知覚繊維Aβ繊維を介して中枢へ伝達されます。
 被検者に軽く目を閉じさせ、両手の示、中、環指の末節の掌側中央の部位を軽く振動子(例えば、リオンAU-02等)に接触させます(図17)。周波数は125、250Hzを用い、上昇法を2〜3回繰り返して、認識できる周波数を記録します。省略する時は多くの場合125Hzで測定します。写真はわが国で広く行われているリオン式振動覚計で振動覚閾値を検査しているところです。冷却負荷時には、常温下で検査した指のうち1指について、冷却負荷終了直後と終了5分目と10分目に同様に測定します。判定基準は表2を参照ください。図では加振器の下にゴム製の防振マットが置いてありませんが、使用時にはマットを使うことが必要です。
 この方法の問題点としては、指で振動子を接触している圧(指押圧)を一定にできないこと、被験者の主観的判断であるという客観性に大きな問題点があります。世界的には、さまざまの測定機器が用いられ測定条件の統一が課題となっております。近年、これまでの測定機器の欠点を改善したHAVLab社のTactile Vibrometerも用いられております(図18)。図19で示したような測定曲線から、ある程度、データーの信憑性もチェックできます。
図17
図17.振動覚検査(リオンAUを用いた右示指の測定)
図18
図18.HvLab社性の振動覚計と温冷覚計
 図の中の左端が振動負荷装置で、長方形のボックスの手前の白い円盤状の中にある心棒が上下に震動する。振動子を圧迫する力を中央手前にあるメーターでコントールする。画面右上はコントロールボックスである。線が細くて写り難くなっているが、このリードは皮膚温のモニター用である。コントロールボックスはパーソナルコンピューターに接続し、測定から結果の打ち出しを自動的に行う仕組みになっている。
図19
図19.HvLab社製の振動覚計の測定例
図20
図20.HvLab社製の振動覚計のレポート

4)痛覚

 被験者に目を閉じさせ両手の手指中節背側部を痛覚計の先で軽く、4-5回突き、痛覚の有無を検査します。痛覚計の先端による、感染の問題もありますので十分な注意が必要です。冷却負荷終了直後と終了5分目と10分目に同様に測定することもあります。判定基準は表2を参照ください。感染症の問題からヨーロッパでは痛覚閾値の測定は省略され、これに代わるものとして温冷覚閾値の測定が行われています。その理論的根拠はどちらも無髄神経支配であることです。

5)温冷覚

 測定方法としては、Minnesota Thermal Disc を用いる方法、HAVLab社Thermal aesthesiometerを用いる方法等があります。山陰労災病院は前者の使用経験はありません。後者の使用法は簡単であります。
 指先の温覚を刺激する最小温度および冷覚を刺激する最高温度を測定し、温冷覚を感知しない温度域(温知覚の温度から冷覚の温度を引いた値)つまり中間帯(neutral zone)を測定します。振動障害では、温覚および冷覚の鈍磨、中間帯が広くなります。中間帯21℃未満を正常とする英国の基準があります。図21に測定例を示しました。
図21
図21.Thermal aesthesiometerによる温度(温冷覚)の測定
振動障害患者neutral zone >21℃

6)末梢神経伝導速度検査

 末梢神経伝導速度検査は末梢神経障害の診断には重要で不可欠の検査法です。振動障害の場合、正中神経と尺骨神経が障害されることがあるので、神経障害の有無を把握するために、運動および知覚神経伝導速度をそれぞれの神経について測定する必要があります。指−手関節、肘−手関節間を測定します。
 運動神経伝導速度検査は、運動神経を躯幹に近い近位部とそれから離れた(すなわち手足に近い)遠位部でそれぞれ刺激して興奮が伝達する時間を測定し、2点間の距離を伝達時間で除して求めます。知覚神経伝導速度検査は,手指を電気的 に刺激して、同一神経の離れた2点間で電位を記録し、その間の伝導速度を求める順行性の活動電位測定が一般的に行なわれています。末梢神経伝導速度は皮膚温が低いと低下し、また加齢によっても低下します。したがって、検査時には皮膚温に留意し、保温に心掛けるとともに、判定にあたっては加齢による影響を考慮しなければなりません。手技が複雑になりますが、末梢ほど障害されているとの事実から、指神経の知覚神経伝速度を計測することもより正確な診断および研究目的では必要と考えます。 もし、患者がしびれを訴えて、神経伝導速度検査がまったく正常である場合は、頚部脊椎症の可能性がありますので、その方の精査をすべきです。

7)Current Perception threshold (CPT)

 この測定装置はNeurometer CPT / C (ALTUS Neurotron, Inc.)と言い、刺激電極としては1対の直径10mmの円盤状金メッキ電極を使用し、刺激は2000、250、5Hzの3種類の周波数の正弦波で、電流の強さは0〜9.99mAである。電気刺激を0〜10mAの強さで皮膚に与え、被験者が刺激による感覚が生じた時の電流値を記録する方法で、詳しく調べる時には、検者、被検者ともにいつ、どの強さの電気刺激が与えられたかが分からない仕組みになっています。2000Hz刺激では直径5〜15μのAβ線維(機能としてはtouch、pressure)、250Hz刺激では直径1〜5μのAδ線維(機能としてはmechnoreceptors、pressure、temperature、first pain)、5Hz刺激では直径0.4〜1.5μのC線維(機能としてはpolynodal nociceptor、temperature、slow pain、postganglolionic sympathetic)をそれぞれ選択的に刺激すると言われており、SCVでは検査することが出来なかった小神経線維の評価も可能になります。振動障害への応用は今後の研究が必要です。
 正常対象者群20例、振動障害者群54例、糖尿病患者群34例、手根管症候群症候群25例で本装置を用いて感覚機能検査を比較しました。その結果は振動障害者群の感覚機能障害の程度は他の2群と比較し同程度であったことを見ています(日本災害医学会誌47(1)12−19,1999)。
図22
図22.Neurometer

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