振動障害
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振動障害とは
 振動障害とは局所振動による障害、すなわちチェーンソー(図1)やグラインダー等による工具・機械・装置などの振動が主として手・腕を通して身体に伝達されることにより生じる、末梢循環障害、末梢神経障害それに運動器(骨・関節系)障害の3障害から構成されています。この障害を手腕振動障害などという呼び方をすることもありますが、我が国では振動障害という名称が公式に使われています。国際的にはHand-Arm Vibration Hazard(HAVS)で統一しようとされていますが、Vibration Syndromeも使われています。一般的には末梢循環障害の症状の中で特徴的なレイノー現象(白指発作、図2参照)から、いわゆる白ろう病とも言われています。
 振動障害とはあくまで局所振動による障害のことをいい、全身振動による障害とは区別しています。それは局所振動と全身振動による障害の内容が異なるからです。局所振動による障害は上述の3障害ですが、全身振動による影響は大きく分類して、影響と障害に分けれています。影響は車や船酔いなどにみられる一過性の自律神経機能失調状態であります。障害としては腰痛や内臓機能障害などが指摘されていますが、これらの障害に基づく症状と他の一般的な疾患による症状との区別ができないため、全身振動の身体に対する影響や障害はまだ十分に解明されていないのが実状です。現時点では全身振動による腰痛が問題意識されつつあります。
 日本で振動障害が社会問題となった時に、旧ソ連の考え方が導入されました。その代表がAndreeva−Galaninaの症度分類です。その考え方は振動曝露により中枢神経まで障害される全身性の障害であるとの考え方でありました。旧労働省は振動障害の最初の通達として昭和52年5月28日の307号通達で振動障害の認定基準、検査項目、その評価について指針を示した。その根本的な背景は、振動障害は全身性の障害であるとの考え方でありました。昭和61年10月に旧労働省は「新治療指針」を出し全身障害説を否定しましたが、組合側等の既得権から幅広い支持を受けるに至るには、長い月日が必要でした。一方、国有林も振動障害で大きな問題を抱えており、治療面では旧労働省とは一線を隔す方針で全身障害説で重篤な障害であるとの観点から、入院治療を繰り返し行うことを実行しましたので、これが合いまって、今日の複雑な様相をかもし出したと、考えています。
図1.振動工具を用いた作業
(木の伐採、工具:チェーン・ソー)
図1.振動工具を用いた作業
図2.振動障害にみられるレイノー現象
図2.振動障害にみられるレイノー現象
左右の環指に境界が明瞭なレイノー現象がみられる。
左示指の色調変化はレイノー現象の回復期の状態を示す。
注) 国際労働機関(ILO)では1980年の「職業病リスト」の改正に関する専門家会議の報告書で、振動障害を「振動による疾病(筋肉、腱、骨・関節あるいは末梢血管、末梢神経の障害)」と定義しています。また、1983年3月に開催されたロンドン会議(注)でも振動障害は「すべての症状が末梢性であり,循環障害(局所的な指の蒼白化、白指を伴う血管攣縮)、感覚・運動神経障害(しびれ・手指の微細運動障害など)、それに筋・骨格系の障害(筋、骨、関節疾患)」ということで合意が得られています。

 局所振動の手腕以外への影響に関する国際会議として有名なものは、1983年3月28〜29日に行われた、いわゆる「ロンドン会議」があります。会議後にGemne、Taylorの編集により、Hand-arm Vibration and the Central Autonomic Nervous Systemという著書がMulti-Scientic Publishing Co.Ltdから出版され、その書の序文で、Gemne、Taylorは「このワークショップでなされた以上の発表から得れた結論から次のことが明らかにされた。すなわち、入手し得た論文の論評や生理学的または疫学的資料を分析しても、手腕振動が大脳の自律神経中枢に損傷を引き起こすという仮説を確認する資料は現在のところまったくないということで意見の統一見解が得られた。」としております。この本は岡田晃、井上尚英により翻訳され、「振動障害―その概念をめぐってー」として日本労働総合研究所から1986年に出版されています。

1)振動障害を起こすような局所振動を発生させる工具

ピストン内蔵工具(打撃工具)
 内蔵するフリーピストンの往復運動でたがね等を打撃し、この衝撃で金属、岩石等の穿孔、切削、ハツリ等の加工またはつき固め等を行う工具です。代表的な工具として削岩機、エアハンマー、電動ハンマーなどがあります。
内燃機関内蔵工具(可搬式のもの)
 内燃機関(主として2サイクルガソリンエンジン)を動力源として回転するエンドレスチェーン、カッター等により加工物等を切断する工具です。この種の工具の振動は、主にエンジンの回転に伴い発生しますが、切断の際にも発生します。チェーンソー、刈払機、エンジンカッターなどがこの範疇に入る代表的工具です。
振動体内蔵工具
 偏心モーター、振動子等を内蔵し、これによって発生した振動を利用して、つき固め、充填または打抜き、切断等の板金加工等を行う工具です。 タイタンパー、バイブレーター、振動シャーなどが代表的な工具です。
回転工具
 電動モーター、エアモーター等により回転するカッター、砥石等により研磨、研削、ハツリ、切断等の加工を行う工具をいい、工具それ自体は振動を発生しないが作業に伴い振動が発生します。代表的な工具としてはスインググラインダー、固定グラインダー、カッター 類などがあります。
締付工具
 ナット、ビス等の締め付けに用いる工具であり、締付機構のクラッチの作動に際し、振動が発生します。各種エアレンチが代表的工具です。

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