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アスベスト関連疾患の診断と治療

アスベスト関連疾患の診断と治療


 中皮腫は、胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜の中皮細胞が腫瘍性増殖する悪性腫瘍の総称です。約80%がアスベストばく露によると言われており、低濃度ばく露でも発症するため、間接ばく露、傍職業性ばく露だけでなく近隣ばく露によっても発生することが社会的な問題となっています。

●診断

 中皮腫の発生部位は、約90%が胸膜、約10%が腹膜であり、心膜、精巣鞘膜からの発生は稀です。胸膜中皮腫の初発症状としては、労作時息切れと胸痛が最も多く、他に咳嗽、発熱もしばしば認められます。しかし、自覚症状がなく、胸部X線で胸水貯留を偶然発見される症例もあります。また、腹膜中皮腫では、腫瘤形成による腹痛や腹水貯留による腹部膨満が初発症状となります。
 画像所見として、胸膜中皮腫の典型的な胸部X線像は、片側性の胸水貯留を伴う多発性の胸膜腫瘤です。進行例では不整に肥厚した胸膜が肺を全周性に取り巻き、病側の胸郭が縮小し肋間腔も狭小化します。
 胸膜中皮腫の場合約80%では胸水貯留を伴います。胸水は血性であることが多いが、がん性胸膜炎とは異なり、細胞診による診断率は概ね30%です。また、胸水中ヒアルロン酸値が10万ng/ml以上である場合には診断価値が比較的高いのですが、約70%の症例では、これより低値を示しました。そのため、確定診断には病理組織学的検査が必須となります。特に胸腔鏡下胸膜生検による診断率は高いと報告されています。組織型は大きく3型に分類されます。がん腫に類似する上皮型が最も多く約50〜70%、肉腫型が最も少なく18%で、両者の組織型が混じる二相型が10〜20%と報告されていますが、その診断は必ずしも容易ではありません。
 腫瘍細胞はヒアルロン酸に富むため、アルシャンブルーあるいは鉄コロイドの染色性がヒアルロニダーゼ処理により消化されて、染色性が消失します。また、免疫組織化学染色による上皮型中皮腫では通常カルレチニン、cytokeratin5/6、WT1、D2-40等がほぼ100%陽性で、CEA, TTF-1が陰性です。しかし、組織型によって、各種マーカーの陽性率も異なります。肉腫型ではCAM5.2 やAE1/AE3の陽性率が高く、カルレチニンやEMAが陽性を示し、平滑筋肉腫等に陽性となるdesmin、smooth muscle actin 、S-100蛋白等が陰性となります。これらによっても確定診断ができないときには、透過型電子顕微鏡検査が必要な場合もあります。
 アスベスト以外の原因として、放射線照射後、第二次世界大戦時造影剤として使用されたトロトラスト、simian virus(SV)40、遺伝的要因等が挙げられますが、いずれもわずかです。中皮腫はアスベスト肺と異なり、アスベスト低濃度ばく露によっても発生することから、アスベスト間接ばく露、近隣ばく露や家庭内ばく露によっても発生します。そのため、過去の職業歴のみならず、住居歴等についても調査が必要となります。

●治療

 治療法は、手術療法・化学療法(抗がん剤)・対症療法の3つに分けられます。

1  根治を目指した唯一の治療は、胸膜肺全摘術(胸膜・肺・リンパ節・横隔膜および心膜の一部を一塊として切除する方法)です。しかし、手術を行う施設によって成績が異なるのが現状です。Sugarbakerらは5年生存率40%と報告している一方で、姑息的手術(壁側胸膜切除/肺胸膜剥離術、壁側胸膜切除術)と比べて生存期間の差が認められないという報告もあります。平成15〜17年に全国で中皮腫のために死亡した2,742例の追跡調査では、手術症例でも生存期間中央値は11.4か月に過ぎませんでしたが、全国労災病院で治療を行った221例の検討では、胸膜肺全摘術を行った場合の生存期間中央値は549日であり、長期生存されている方もおられます。従って、手術適応を早期病変に限り、熟練した外科医が手術を行えば、良好な予後が期待できます。
2  前述の平成15〜17年の中皮腫死亡例の調査では、化学療法を行った症例の生存期間中央値は9.3か月に過ぎませんが、わが国でもペメトレキセド(アリムタ)が認可され、世界的に標準治療とされているシスプラチン+ペメトレキセド併用療法が行えるようになりました。海外での臨床試験では、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法を行った場合の生存期間中央値は12.1か月であり、化学療法単独では治癒が望めませんが、手術や放射線療法と組み合わせた集学的治療によって治療成績の改善が図られるものと期待されます。
3  平成15〜17年の中皮腫死亡例の調査では手術や化学療法を行えなかった症例の生存期間中央値は5.5か月と最も予後不良なグループでした。中皮腫に対する主な対症療法として、胸水をコントロールするための胸膜癒着術と痛みのコントロールの2つが挙げられます。胸膜癒着術に用いる薬剤として、わが国では主にOK432(ピシバニール)や抗がん剤(シスプラチン・ドキソルビシンなど)が用いられます。また、胸膜中皮腫で最も問題となる症状は、胸壁浸潤などによる痛みです。痛みに対して、医療用麻薬を含む鎮痛剤の投与によりコントールしていきます。

 全国労災病院の221例においてその他の因子について検討したところ、診断後の生存期間中央値は300日であり、胸膜中皮腫は299日で、腹膜中皮腫は170日と原発部位別で大きく異なることが判明しました。

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