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職場復帰のためのリハビリテーション

職場復帰のためのリハビリテーション~第二次研究に向けて~

豊永 敏宏
独立行攻法人労働者健康福祉機構・勤労者リハビリテーション研究センター
九州労災病院勤労者予防医療センター
(平成22年3月26日受付)

要旨:
第一次研究として実施された。全国の労災病院における脳血管障害(15歳から64歳)の早期職場復帰(以下復職)のモデルシステムの開発・研究は、351例のデータ登録の基、以下のような結果となった。1)発症後1年半までの復職率は46.2%であり、経時的には発症3ヵ月前後と1年半前後の二つにピークがみられた;2)早期(退院時)の復職には身体機能障害度が大きく関与することが明らかとなった;3)発症1年半後に行ったアンケートの結果からは,医療機関などの復職支援体制が復職に関与を認めたが。未記入が多く確定的な結果は得られなかった。
職場復帰のためのリハビリテーションは、発症当初から綿密かつ多面的アプローチが不可欠であるが、医療経済情勢の変化により病院態勢の急性期化が進み、在院日数の短縮化が強まっている。このような現状においては病期の医療分断化が進むため、退院後のフォローや復職アプローチが困難になるものと思われる。したがって。継続的なフォローを可及的になし得る人材の育成が大切となる。例えば、復職に通暁せるMSWの配置などにより。産業医や職業リハなどとの連妻を深める事が重要と考える。
第二次研究は退院後のフォローこおける復職可否要因の検証を目的として、前回と同様にデータ集積することにより。MSW配置や就労センターなどの設置の必要性を検討していく。

(日職災医誌、58:214―219.2010)

はじめに

労災病院が政策病院としての役割を果たすため、独立行政法人労働者健康福祉機構(以下本部)の主導のもと、13労災疾病研究テーマの一つに「職場復帰のためのリハビリテーション」が指定された。その具体的テーマとして「早期職場復帰を可能とする脳血管障害に対するリハビリテーションのモデル・システムの研究・開発」が選定され, 2005年から全国21労災病院から集積されたデータを基に、早期の職場復帰(以下復職)のモデル・システムにつき研究結果を報告した(第一次研究)この結果から、早期(退院時)の復職可否要因は身体機能障害度などと関連性が強いことが明確になったが、退院後のフォローについては十分追求できたとは言えない。今回、退院後の復職可否要因の分析を主眼とする第二次研究を開始するにあたり、これまでの研究から浮上した課題を挙げ、今後の計画について報告する。

第一次研究の概要

1.第一次研究の結果要約
全国の労災病院における脳血管障害(15歳から64歳)の早期復職のモデルシステムの研究・開発は, 351例のデータ登録の基、以下のような結果となった.

1) 発症後1年半までの復職率は46.2%であり、経時的には発症3ヵ月前後と1年半前後の二つにピークがみられた.

2) 早期(退院時)での復職可否要因については、復職可能群(検討中も含む)104例と不可能群247例の2群に分け、多変量解析(数量化理論Ⅱ類)にて関連性を検討した結果、早期復職には身体機能障害度が大きく関与することが明らかとなった。

3) 発症1年半後に行ったアンケートの結果(296例:回収率84.3%)からは、個別的にはメディカルソーシャルワーカー(以下MSW)の復職支援や会社の対応および本人・家族の復職希望有無などが関与を認めたが、未記入例が多かったため統計解析において不十分な結果となった。

表1 職場復帰の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析

因子 有意確率 オッズ比 オッズ比の95%信頼区間
下限 上限
発症時の年齢 < 0.001 0.831 0.749 0.922
リハ初回評価時のBI 0.034 1.014 1.001 1.026
片手症候群 0.016 0.066 0.007 0.608
医療機関との連携 0.012 7.419 1.559 35.303
優位性の無い変数 有意確率
先行 0.701
最終学歴 0.494

図1 入院からMSW面談までの期間(週)
入院からMSW面談までの期間

2.サブ解析の結果要約
第一次研究で得た共同研究者からのデータ分析結果を紹介する.

1) 復職支援の効果(産業医との連携)
第一次研究の報告の中、産業医の支援の有無については症例が少ないものの、連携有りが有意に復職可能であったと報告した。この事実を共同研究者の田中(中部労災病院)がさらに詳細に分析している。これによると、復職の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析では、発症時の年齢、リハ開始時のBarthel Index, 肩手症候群、産業医との連携が復職に有意な因子で有ることが示され、産業医との連携が良好な場合は、連携のない場合に比べて7.5倍復職に有利であったとしている(表1)。産業医が発症後から復職に関与するケースは極めて少ないのが現状であり、発症早期からの産業医の関わりをいかに作っていくかが課題である。

2) 復職支援の効果(医師からの働きかけなど8項目)
共同研究者の豊田(中国労災病院)らは、復職に関する支援(医師からの働きかけ・医療機関の復職支援・上司との連携など8項目)の関与と復職可否の関連性を検討し、発症後6ヵ月以内の復職群を早期復職可群(88例)と不可群(44例)に分け、ロジスティック分析を行った。これによると、医療機関の支援など社会的支援有りの群はオッズ比が高く、早い段階の医療機関などによる復職支援の重要性を指摘している。
以上の二つの報告は、早期から退院後までを通じて、医療機関等の復職支援の重要性が示唆されており,今後、どのような退院後のシステムが有用であるかを検証する糸口になるものと考える.

3) その他
a) 高次脳機能障害者に対するグループ療法の効果
頭部外傷や脳血管障害後の身体運動機能障害の少ない高次脳機能障害者に対し、グループと個別的なプログラムを多種の専門職(医師・OT・ST・臨床心理士・MSWなど)が指導し、特に復職目標を定めた訓練の結果、かなりの復職率を向上させている.このことはグループ療法による障害認識やスタッフ間における情報の共通認識の高まりが復職率を上げたものと思われる。この方法は、身体的機能障害のない症例に対する復職アプローチとして有効であると考えられ、今後注目される方法である。
b) MSWの関与の効果
リハ医療におけるMSWの早期介入が望ましいとする報告はみられるが、実際に臨床比較の研究結果はない。第一次研究において、退院時までの復職可否とMSW介入の時期を検討すれば、復帰群(入院からMSW面談までの平均期間:2.9週)。不可群(同:5.4週)となっており、復職可能群の方が早く面談した症例に有意(p<0.001)に多くみられた(図1).また、退院時の身体機能障害度(m-RS)を軽度(O~1)、中等度(2~3)、重度(4~5)に分け、MSWの関与について関連性をみると、軽度障害においてはMSWの関連が有る方に復職可が多かった(p<0.001)(x2乗検定)(図2).しかし、リハの主たる対象となる中等度障害者についての関連性は認めなかった。これらのことから、軽度の身体機能障害者は、可及的早期のMSWの復職支援アプローチが復職に繋がるものと考えられる.
c) ケースマネージャーやコーディネーターの役割
頭部外傷に対する欧米の取り組みでは、復職に関わるキーパーソン的なケースマネージャーが配置され積極的なリハ・システムが構築されている。この中で、ケースマネージャーの役割を本人、家族、家庭医、所属機関その他の人的資源にかかわり、優先順位をつけ、所期の目的(復職)を全体的に達成するため、あらゆる資源を動員することであるとしている。本邦において、退院後のフォローを含めたケースマネージャー的な役割を担える職種としてはMSWが適任であると考える。従って、復職に関する知識と技術を持ち合わせた復職コーディネーター(例えばMSW)が核となり、医師など他職種がサポートをする体制が復職支援体制としては理想的であると考える(図3)。

3.第一次研究の課題
1) Phase3 (発症後1年半)の調査票未記入
収集された351例にアンケート調査を郵送で施行し、296例の回答で回答率は良かったが, Phase3の項目のうち復職可否要因に関する未記入が多く、統計的分析に難点がみられた。また、症例収集の症例提供において、病院間に対象症例の選定方法にバイアスがみられたので、第二次研究では可及的全例収集を目標とする.

2) MSWの業務内容の変遷と課題
医療の高齢化・重複化・高度化に伴い、急性期病院におけるMSWの業務は繁忙となり、殆どが退院調整に費やしている現状がある。九州労災病院において、平成20年度、医師からの社会復帰に関するMSWへの依頼件数は全業務のわずか3%に過ぎない。このような状況下では、入院時からだけでなく退院後の復職のフォローにおいて、重要な役割を担うべきMSWの復職に関わる力量低下を招きかねない。

図2 MSWの復職関与(m-RSに分類)
MSWの復職関与

図3 復職コーディネーターとサポート体制
復職コーディネーターとサポート体制

まとめ

第二次研究の概略を示し、研究目的として、退院後の症例分析から復職可否関連要因をより明らかにするとともに、復職コーディネーターの必要性を検討する事を述べた。

共同研究者:
中部労災病院リハ科部長:田中宏太住、吉備高原医療リハビリテーションセンター院長:徳弘昭博、中国労災病院リハ科部長:豊田章宏、山口労災病院リハ科部長:富永俊克、九州労災病院リハ科部長:河津隆三.産業医科大学リハビリテーション准教授:佐伯 覚,九州リハビリテーション大学校教授:堤 文生,前東京労災病院リハ科技師長:深川明世、大阪労災病院リハ科技師長:田上光男、九州労災MSW:大塚 文
なお、本研究は独立行政法人 労働者健康福祉機構「13労災疾病研究開発事業」によるものである。

図6 急性期医療でのリハ医学・医療の乖離
急性期医療でのリハ医学・医療の乖離

図7 研究の概略
研究の概略

文献

  1. 独立行政法人労働者健康福祉機構編:「早期職場復帰を可能とする各種疾患に対するリハビリテーションのモデル医療の研究・開発。普及」研究報告書. 2008.pp87-94.
  2. 豊永敏宏:脳血管障害における職場復帰可否の要因-Phase3(発症1年6ヵ月後)の結果から―。日職災医誌 57 :152―160, 2009.
  3. Saeki T, Toyonaga T: Determinants of early return to work after stroke in Japan. J of Rehabil Med 42: 254-258.2010
  4. 田中宏太佳、豊永敏宏:脳卒中患者の復職における産業医の役割―労災疾病等13分野医学研究・開発、普及事業における「職場復帰のためのリハビリテーション」分野の研究から―。日職災医誌57:29―38,2009.
  5. 日野義之、藤代一也、堀江正知、他:産業医業務時間配分調査報告、産業医学ジャーナル 20:46―51,1997.
  6. 徳本雅子、豊田章宏、豊永敏宏、他;第57回日本職業災害医学会(抄録)。2009, pp156.
  7. 豊田章宏:職場復帰のためのリハビリテーション―急性期医療の現場から―。日職災医誌 57 : 227―232,2009.
  8. 永吉美砂子、上田幸彦、高橋雅子、他:脳損傷者に対する包括的・全体論的リハビリテーションプログラムの実践。総合リハ 33:73―81,2005.
  9. 佐々木千穂、川上千鶴子、久保田美鈴、他:高次脳機能障害を持つ患者の社会復帰支援―グループ療法を通して―。認知リハ 2008:27―34,2008.
  10. 田中 渉:障害者の復職へのアプローチ・MSWの立場から。日本災害医誌 44:191―194,1996.
  11. 岩崎貞徳(監訳)、大橋.正様(解説):脳外傷のリハビリテーション―就労を目指して―。東京、三輪書店, 1998,ppl33―149. FT Thomas, FE Menz, DC McAlees (Edt):Community-Based Employment Following TraumaticBrain Injury.