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中途障害者の職場復帰

中途障害者の職場復帰

豊 永 敏 宏

はじめに

就業者が外傷や脳卒中などの疾患で就業の中途で障害者となり。離職せざるをえなくなる、あるいは職場復帰(以下復職)後に疾病の合併症などのために就業続行が不可能となることがある。障害を抱えた状況での復職は、一般就労と違い復職阻害の要因が多面的であるため、個別的対応が必要となる。本稿では障害者雇用の現状や復職についての概要を述べ、特に脳卒中後の復職プロセスの要点について言及する。かかりつけ医としての実地医家が復職・雇用の過程でかかわりを持つことは決して少なくなく、その際の役割についても触れる。

対障害者雇用の実態

わが国の障害者の総数は723万人(06年)で、このうち身体障害者は357万人である。近年、障害者の高齢化が進んでいるため障害の重度化・多様化の傾向がみられている.このような状況の中、日本における障害者雇用は欧米に比べると立ち遅れていることが指摘されている。例えば、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)に設けられている一般企業の障害者実雇用率は1.58% (08年)で法定雇用率皿(1.8%)を下回っている。この数値はドイツの4.3% (法定雇用率は5.0%)に比べても明らかに低い。また、06年に施行された障害者自立支援法の就労移行・継続支援事業(福祉施設から就労を目指す)も十分な成果をあげているとはいえない。これら欧米との差異は、障害者雇用対策の歴史的な背景や人権認識の相違からきているものと考えられる。わが国の一般的な障害者雇用の過程を図1に示す。わが国の障害者政策の特徴は労働行政(障害者雇用促進法)と福祉行政(障害者自立支援法)の2本立てで行われており、縦割り行政の弊害が指摘されている。このシステムが上述の障害の重度化や多様化に対応しきれず、企業の経営状況に左右されるという弱点を有している。また、障害者自立支援法に基づく復職は、就労支援事業として福祉政策の意味合いが強く、精神障害者の例には実績が上がっているものの、身体障害を有する脳卒中障害者へのサービスは希薄である。

図1 わが国の障害者雇用実態
わが国の障害者雇用実態

復職率と復職の意義

厚生労働白書によれば15~64歳までの障害者のうち就業率は、身体障害者では43%、知的障害者では52.6%,精神障害者では17.3%となっている。また、身体障害者の常用雇用は48.4%、授産施設や作業所など福祉的就労は6.5%である。したがって、身体障害者の就業率は一般人のおおよそ1/2~1/3である。また、身体障害者で最も多くを占める脳血管障害後の復職率は内外においても古今においても約30%と変わらない。復職は障害者にとっては最大のQOL獲得となるばかりでなく、社会参加の実現は自己効用感を高めるうえで大きく寄与するものと思われる。これに加えて、tax payer としての経済的側面は大きい.特に、障害者の離職に伴う直接的・間接的な経済的損失は、先進国の国家財政を逼迫するほどの重要な課題である。

復職のプロセス

最近、企業のメンタルヘルスにおいては、どのように復職への流れを作成していくかが注視されている。そのため、各企業で復職支援プログラムの作成など復職を視野にいれた取り組みが始まっている。一方、身体機能障害や高次脳機能障害だけでなく、特有の合併症(再発を含め)を有する血管障害などの疾患における復職においては、標準化されたツールや復職プロトコルがないうえ、医療側スタッフと企業側スタッフとの連携が十分でない。そのためもあってか、復職判定委員会の産業医の出席率が低いのが現状である。企業で試行されているメンタルヘルスの一般的な復職支援のプロセスを提示する。(図2)

図2 メンタルヘルスにおける一般的な復職プロセスの流れ
メンタルヘルスにおける一般的な復職プロセスの流れ

脳血管障害後の復職支援体制

障害を持った中高年労働者を復職させるためのサポート体制をどのように組み立てていくかが重要な課題である。ここでは身体障害の代表的疾患である脳血管障害後の病後経過の特性や復職サポートのポイントについて述べる。

1.脳血管障害後の経過
発症後遅くとも1ヶ月で病状は安定し、麻痺の回復は3~6ヶ月で終了することが多い。後遺症が軽度であればほぼ3ヶ月で在宅復帰となる。

2.脳血管障害後の復職
二つのピークがある。後遺症が残存していないか軽度障害の場合は入院治療が終了する3~6ヶ月で大部分が復職できる。また、傷病手当の受給期限となる発症後1年半に二つ目のピークがある。さらに、復職可能であった約80%は発症前の職場に復帰し、復職者の4/5は原職に復帰する。

3.復職判定の条件
住伯によれば、復職の最低条件としては、①何らかの仕事ができる(仕事の正確性)、②8時間の作業耐久力。③通勤が可能である(公共交通機関の利用)をあげている。さらに職場定着や就業継続の条件として、④障害の受容が加わる.

4.サポート体制
脳血管障害後それぞれの病期において、医療機関・産業保健スタッフ・企業などが適切なサポート体制をとることが大切である.その中で実地医家がかかわることは、復職に際しての診断書作成や高血圧などの合併症の管理である。診断書の作成にあたっては、麻痺の程度・認知機能や精神機能状況の程度などは医療機関のスタッフから、可能であれば職務遂行能力などの情報を産業医などから取得する。また、本人の復職意思有無の確認など幅広い情報のもと配置転換や就業制限などを加味して作成する。急性期病院からの復職への流れの中で実地医家がかかわる可能性のある役割について図3に示す。

図3 発症から復職に至る経路と実地医家の果たす役割
発症から復職に至る経路と実地医家の果たす役割

おわりに

障害者の雇用の概略と脳血管障害後の復職についてのサポート体制について述べた。復職を促進する要因として医学的支援だけでなく社会的支援の重要性を指摘する報告が増えている。リハ医療などの専門的職種だけでなく、実地医家においても脳血管障害者に限らず障害者の復職に対し、最大のQOL獲得であるとの認識のもと復職支援に可及的に携わるべきである。

文献

  1. 厚生労働省:厚生労働白書(平成21年版)、ぎょうせい、東京. p.43-56, 2009
  2. 佐伯 覚:脳卒中患者の職業復帰。日本職業・災害医誌51 : 178-181, 2003
  3. 佐伯 覚:i血管障害の職場復帰のためのサポート体制。労働の科学50(1):27-30, 1995
  4. 独立行政法人労働者健康福祉機構編:「早期職場復帰を可能とする各種疾患に対するリハビリテーションのモデル医療の研究・開発、普及」研究報告書.p.155-160、2008
  5. Wolfenden. B. et al Returning to book after stroke:a review. Int J Rehabil Res 32 : 93-97,2009
  6. Daniel. K. et a1.:What are the social conse-quences of stroke for working-age adults? A systhematic review. Stroke 40:e431-e440, 2009