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研究課題[2]
―職業性皮膚障害に対する職場作業環境管理の進め方に関するガイドライン作成―
―理・美容業界をフィールドとして―

今後の検討課題

 理・美容師の皮膚炎対策として、まず必要と考えられることは、原因物質を確実に回避するための手段です。今後検討していく必要がありますが、過去の報告から、現段階で有用性が期待される予防手段について述べたいと思います。
 アンケート調査の結果から、防具として一般的に使用されるグローブは、作業に支障が出るため着用率が低い状況にあります。それでもアレルギー性接触皮膚炎の原因として最も重要である染毛剤の使用時には、グローブの着用率は比較的高いですが、着用していても皮膚炎が治らないという理・美容師は少なくありません。この理由として、ヘアカラー施行時はグローブを着用していますが、その後の洗髪の際にグローブを外すことが多いため残留する染毛剤成分と接触してしまうということが指摘されます1)。また、なるべくグローブの着用を心がけているというケースでも、多忙な業務中においてはパーマのかかり具合や染まり具合を確認する時など、素手で薬液のついた毛髪に触れてしまうことがあり、皮膚炎の起因物質との接触を避けきれていないようです。
 一般的な手湿疹や理・美容師を含む一部の職業性皮膚炎において皮膚保護剤の有用性が検討されています。皮膚保護剤は、高分子皮膜成分によりバリアを形成して皮膚を保護し手荒れを予防するもので、シリコン系皮膚保護クリームなどがあり、入手可能です。
 早川ら2)の理・美容師15例の検討によると、皮膚保護剤と、皮膚炎の治療に使用されるステロイド軟膏の併用で、12例(85%)に改善以上の効果があったが、洗髪時には指先をこするため保護剤が除去され、防御効果は十分でなかったと報告しています。また、中山3)は、皮膚保護剤は従来の対症療法や原因物質の解明と組み合わせることによってかなりの効果が期待できるが、染毛剤成分のパラフェニレンジアミンによるアレルギー性接触皮膚炎の重症例では保護剤の被膜が薄いためか防御効果は十分でなかったと報告しています。基本的にはグローブの着用を心がけ、どうしても避けきれない皮膚炎の起因物質に対する対策として皮膚保護剤を用いることが望ましいと考えられます。より十分量を頻回塗布することで、皮膚保護剤単独でも効果が上がる可能性はありますが、皮膚保護剤のコストの問題が出てきます。皮膚炎未発症例やごく軽症の例では、有用性が高いのではないかと推測しますが、今後の検討課題とします。
 皮膚保護剤以外の予防手段については、薄手で肘まで保護できるプラスチック製の手袋が、理・美容師における皮膚炎の再発防止にきわめて有用であると言われています4)。松永ら5)は、ゴム手袋でのパッチテスト陽性率が25%であったのに対し、プラスチック手袋は全例陰性であったと報告しており、防具でかぶれるという心配はほとんどありません。洗髪時毛髪のひきつれが少ないというメリットもあります。問題は、ゴム手袋よりも細かい作業が困難であるため、ワインディング時の使用に熟練を要することが指摘されます5)。これに関しては、皮膚炎に悩まされていた美容師からの依頼により、指の側面が特に薄くなっており着用したままワインディングをおこない得るタイプの手袋が開発されており4)、その有用性が期待されます。

<参考文献>
1)片岡葉子:アレルギーの臨床 25:1081-1085,2005
2)早川律子,他:日本皮膚科学会雑誌 99:1335-1336,1989
3)中山秀夫:西日本皮膚科 52:143-146,1990
4)中山秀夫:皮膚病診療 28(増):157-162,2006
5)松永佳世子,他:皮膚 31:167-175,1989
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