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両立支援
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MentalTribune

Medical Tribune(平成25年2月21日号)
第60回日本職業・災害医学会における研究発表について紹介されました。

~がん~ 術後大腸がん患者の職場復帰は7 割

両立支援:がん(過去研究の目的及び意義)
がん罹患勤労者の就労に関する研究・開発、普及

研究の目的及び意義

(目的)
労災病院は、当初、主として労働災害における被災者の診療などを行うために設置され、昭和20年代から30年代には社会的に問題となっていたじん肺症対策、昭和40年代には、産業構造の重化学工業化に伴う多様な健康障害への対応、昭和50年代には化学物質による新しい職業がんへの対応、昭和60年代には過労死問題や女性の社会進出に伴う母性を含めた健康管理問題への対応を行ってきました。その後も産業構造や作業環境の変化に伴う多様な健康障害への対応のために、労災病院は、医療の専門分化や最新医療機器の整備をはじめ診療機能の強化と多診療科による近代化を進め、勤労者の健康保持、疾病の予防、治療、社会復帰までを対象とした総合的な勤労者医療を実践してきました。
一方、近年では医学の進歩により、これまでは退職や長期の休業を余儀なくされてきた傷病も働きながら治療を行うことが可能となってきています。
今後はサービス産業従事者の増加、労働力人口の急激な減少、高齢化等の就労構造の変化に伴って、がんや糖尿病等の疾患も治療を行いながら就労を行う勤労者が増加すると予想されます。

しかし、現実的にはこれらがん罹患勤労者は急性期の治療後も障害者雇用法の適応も受けることなく種々の理由で退職し、ハローワークなどに再就職先を探し求めていることも少なくありません。そのためこれら直接、労働業務との因果関係がない疾患を罹患した勤労者が治療後に職場に復帰したり、就労を続けながら治療を受けられるように労働環境を整備するために医療のあり方を含めた社会政策の研究開発をおこなうことは至急の課題となっています。
また、職場復帰の支援や就労と治療の両立のための診療現場と職場の医療連携の現状をみると、主治医は、患者の傷病の状況を把握しているが、労働形態や職場環境を把握することは難しく、逆に、産業医等の産業スタッフは守秘義務等により傷病を抱える勤労者の療養内容を把握することが困難な現状です。即ち、診療現場と職場における医療連携が進んでいないために勤労者の職場復帰や個々の健康状況を応じた就業に関する制限や助言を行うことが困難な状況となっています。
そこで本事業では、医療連携パスによる連携のシステムを構築してがんに罹患した勤労者の職場復帰と就労と治療の両立が可能となるよう、診療現場では、がん患者の病態にあわせた低侵襲的治療や、オーダーメード治療を行い、次いで職場との連携の下に、その後の精神的ケアも含めた、総合的リハビリテーションを行い、随時職場復帰の為の精神的、肉体的回復度を判定していく。雇用側も産業医、衛生・人事管理責任者、産業看護師が職場復帰支援プログラムのもとに就労支援体制を構築し勤労者の円滑な職場復帰を目的とするものです。
すなわち本研究は医療現場と職場の医療連携を推進し、がんに罹患した勤労者が退職や長期休業の不安なく、療養し円滑な職場復帰を目的として行うものです。

(意義)
少子化による労働人口の減少と急激な高齢化が進展しているわが国において持続的成長が可能な経済社会の構築は緊急的政策課題です。そのため、国民一人一人の価値観を尊重しつつ、人材を生かす制度・仕組みを整備し、実施することが急務となっています。
厚生労働省研究班「本邦におけるがん医療の適正化に関する研究班」の班長山口建静岡がんセンター総長によれば、がん罹患勤労者の30.5%が依願退職し、解雇された人は4.2%に達しています。その為、がん死亡者も入れると、逸失利益が年間6兆8千億円にも達してしまいます。退職の理由の中には、がんになっても勤務先になかなか言い出せなかったり、治療にいく時間もないためということもあるといいます。従来、わが国において勤労者が、がんなどの病気に罹患した場合、早期の職場復帰や就労と治療の両立のための社会的支援を担っていた家族や地域コミュニティーは核家族化、共働き、単身赴任、都市部への人口集中による地域の過疎化、終身雇用制度の崩壊、非正規従業者割合の増加等の社会構造の変化により、その機能を急速に失っています。即ち、社会人として重要な問題であるがん罹患勤労者の「くらしの支援」や「就労」などが手付かずの状態となっています。
急性期のがん診療においては早期復帰が可能なように、低侵襲的、オーダーメード的診療を行い、その後、勤労者が再発予防のために抗がん剤治療を継続したり、再発、再燃に対する精神的、肉体的障害が生じた時にも、就労と治療の両立が可能なように、医療現場と職場の医療連携による適切な社会的支援を行うことは、がんを罹患した勤労者が安心して治療を受け、円滑な職場復帰に備えることが可能になるばかりではなく、企業側にとっても経験豊富な職員の雇用を安定させることにつながります。
この医療現場と職場の医療連携のためには、診療現場のメディカルソーシャルワーカー(MSW)やがん専門看護師は、がんに罹患した勤労者の就労や家庭経済の相談相手となりますが、更に主治医・かかりつけ医と産業医又は産業看護師、衛生・労務管理者の間をコーディネートすることも不可欠です。このMSWが専門知識を得た上でコーディネートを行うことになれば、新たな職種の雇用創出にもつながります。
雇用側も産業医と衛生・労務管理の責任者は主治医との医療連携のもとにがん罹患勤労者との面談を行いながら職場復帰支援プログラムを作成し円滑に職場復帰ができるよう、柔軟な労働環境を整備しなければならないと考えます。
このような円滑な医療連携により早期の職場復帰や就労と診療の両立が可能となれば、がん罹患患者は積極的にがん治療を受けるようになり治療成績も向上するといわれています。また職場復帰による人的資源の有効的活用は国家経済からみても有用であるし、これらのことは勤労者の権利が社会的にも守られ、より一層労働意欲が高まると共に、活力ある成熟した国家の条件の1つが満たされることになると思われます。

国内・国外における研究状況及び特色・独創的な点

①がん罹患勤労者の就労に関する調査研究

(国内外の研究状況)
がん治療成績の向上に伴い、主に国外を中心として、がん罹患勤労者が急性期治療後の職場復帰についての医学的、社会的研究が盛んに行われてきています。現在は職場復帰率や復帰後の精神的、身体的障害度に応じた労働環境などが調査されています。
職場復帰率に影響を及ぼす因子としては、病気関連因子、人口統計学的関連因子、社会-職場の関連因子が明らかにされているが、特に雇用側の理解や対応の遅れを指摘する報告が多くなっています。
一方、医療側に於いては乳がん患者を中心とした職場復帰プログラムが専門ナース、MSWが社会復帰のための中心的スタッフとして行われ、好成績をあげている例も紹介されています。最近本邦に於いても就労状態の実態調査が2~3報告され、がん罹患勤労者の就労の実態がようやく注目され出しました。
しかし、国内外の研究をみても、実態調査から就業率を向上させるための何らかの介入試験を行った研究はまれで、特に、医療側と雇用側との連携体制に関する具体的な現状調査や介入についての研究はみられません。

(特色・独創的な点)
本邦に於けるがんに罹患した勤労者の職場復帰や就労とがん治療の両立の実態に関する分析調査は極めて少ないのが実情です。
本事業に於いては、がん罹患勤労者に就労復帰についての現状、就労復帰不能の為の障壁と就労復帰の為の要望についてアンケート、ヒアリングを行い、それに基づき医療側(医師、MSW等)と雇用側に就労復帰支援業務の現状についてアンケート、ヒアリングを行います。
その結果得られたデータから介入すべき事項を選び出して(例:職場復帰のための自己・臨床評価、職場復帰に関する情報提供(DVD作製など)、職場復帰支援プログラムのための医療連携システムなど)、がん疾患の臓器別にケーススタディーとして数ヶ所の労災病院と雇用側において介入試験(コホート試験)を行い、その結果を実証します。
特にがん罹患勤労者は急性期の治療後により職場復帰したとしても、その後に再発防止のために抗がん剤療法を続けたり、再発、再燃の不安やその為の治療が続くため、主治医との密な連携のもとに、産業医のアドバイスをうけながら、勤労者それぞれの病態(クリニカルスコア)に応じた就労が出来るようきめの細かい労働環境の整備が必要となります。
本事業は、医療現場と職場との医療連携を目的に両方にさまざまな介入をコホート試験で行うものです。この事業により、早期の職場復帰率が向上したり、治療と就労の両立が可能となれば、がん患者の旺盛な勤労意欲を前提に、医療連携のあり方や抗がん治療休暇制度や職場復帰支援プログラムを包含した「がん患者雇用促進法」を制定することも提言していきたいと考えています。
これらの点より本事業は政策提言を目的とした極めて先駆的、独創的な研究であると考えています。

研究成果

雑誌掲載


『へるすあっぷ21 2012年8月号』掲載
医療機関から進める両立支援

フォーラムの開催

  • 2010年1月8日開催 パネルディスカッション

  • 2010年3月18日開催 勤労者医療フォーラム がん 仕事 支えあい

  • 2010年9月12日開催 勤労者医療フォーラムINかながわ

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