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リハビリテーション
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日本職業・災害医学会会誌

R-3 脳血管障害の職場復帰モデルシステムの研究・開発
~社会的支援(ソーシャルサポート)の課題~

豊永敏宏1.2)
九州労災病院 勤労者リハビリテーション研究センター1
九州労災病院 勤労者予防医療センター2

脳血管障害の職場復帰(以下復職)のモデルシステム研究(04~08年;n=351)の結果から共同研究者らは、早期の復職に反映する要因は、男性および軽度の身体障害が復職しやすい、復職時期の早晩には医療機関の支援・ADL・易疲労性が影響するあるいは産業医との連携が重要であるなどを発表し、いずれもリハスタッフの復職への早期介入や医療機関の復職支援の重要性を指摘している。
一方、発症後1年半における復職可否の調査では、退院時に身体機能障害がほとんどない症例(modifiedRankin Scale:0~1)において30%が復職不可能であり、中等度障害(同:2~3)は半数以上が復職不可という事実が明らかとなった。このように身体障害度が軽度であっても,復職を阻害する心理・社会的要因として、経済的状況に重きをおく企業の判断、本人や家族の復職意欲の低下、医学的復職可否判断の的確性などが挙げられる。さらにソーシャルサポートとしての側面の一つに、患者や家族に対する教育・指導・相談の有無があるが、十分に行われている現状ではない。加えて、復職・雇用に関する情報提供の不足や遅延が背景にあると思われる。病期・病院間において医療の分断化が進む中、急性期医療機関における復職に関する相談や情報提供者として, MSWなどリハスタッフの存在は大きいと考える。
個別的で多面的要因を含んだ脳血管障害の復職について、コーディネーターの意義を明らかにすることを目的とした,第二次研究を進めるにあたり,主としてソーシャルサポートの課題や意義について述べる。

0-87 脳卒中後の職場復帰:早期復職に関する予測要因

佐伯覚1)、豊永敏宏2)
産業医科大学 医学部 リハビリテーション医学講座1)
九州労災病院 勤労者予防医療センター2)

【目的】
脳卒中急性期医療の進歩、回復期リハビリ病棟や地域連携パスなど、脳卒中を取り巻く医療状況の大きな発展にも関わらず、脳卒中後の職場復帰(復職)率は20年前と比べて大差はない。その理由の一つとして復職への介入の遅れが指摘されている。本研究は初回発症の脳卒中患者の復職までの期間と、早期復職に関する要因を前向きに検討した。

【方法】
初回脳卒中後の早期復職と入院時の要因との関連を検討する前向きコホート研究デザインを採用した。2006年2月~2007年1月まで、全国21の労災病院で入院加療を実施した初回発症の脳卒中患者464名のうち、65歳未満で発症時有職の325名を対象とした。入院時の初期評価の後、18ヶ月後まで前向きに調査を実施した。解析は、発症からの経過に対する復職率の推移をKaplan-Meier法で検討するとともに最終的な復職者において、早期復職の予測要因のオッヅ比を多変量ロジスティック回帰分析にて算出した。

【結果】
325名(平均年齢55歳)の初期コホートのうち,253名(78%)が追跡可能であり、そのうち138名(55%)が復職した。復職率の累積曲線は、発症からの経過日数に対して非直線的に増加した。早期復職の有意な予測要因として、性別、麻痺側手機能および日常生活動作の自立度が同定された。

【結論】
復職率の累積曲線は、発症からの経過日数に影響され、脳卒中後の障害の特異性を反映していることが考えられた。男性ならびに軽度の身体障害を有する脳卒中患者はより早期に復職する傾向があることが判明した。尚、本研究は、労働者健康福祉機構・労災疾病等13分野の医学研究である「職場復帰のリハビリテーション分野」(主任研究者:豊永敏宏センター長)によった。

0-88 当院リハビリテーション科における職業復帰支援の取り組み

小川進太郎、寺松寛明、近藤大輔、和田昌一
愛媛労災病院 リハビリテーション科

【はじめに】
当院リハビリテーション科では、平成20年9月より労災患者に対し看護部門と連携して職業復帰訪問指導を行っている。今回はこの取り組みの中から職業復帰に至った例を紹介し、考察や今後の課題を交えて報告する。

【症例】
A氏、40代男性。右上腕骨近位端骨折、骨盤骨折、左脛骨高原骨折の患者である。術後8日目ベッドサイドリ八開始、リ八開始後約1ヶ月で職業復帰訪問指導を実施した。A氏は某化学工場の作業員であり、フォークリフトによるドラム缶の運搬作業が主な仕事内容である。フォークリフトの操作方法やその他の作業内容、及び職場環境について職場の上司から説明を受け,そこで我々担当PT・OTだけでは気付きにくい視点からの意見も聞くことが出来、改めて職場訪問の重要性を痛感した。訪問調査後のリハは、A氏本人に対し復職に必要な機能・能力についての確認を行ったことでA氏のモチベーションが向上し、復職を想定したリハプログラムをスムーズに導入することが出来た。A氏は術後約2ヶ月半で退院,その後外来でリ八を継続しながら退院後約1ヶ月で職業復帰に至った。

【考察】
リハ開始後可及的早期に職業復帰訪問指導を実施することで、復職に必要な機能・能力を患者と担当PT・OTのお互いが確認し合い,より実践的な復職リハが可能となると考える。また、担当PT・OTだけでなく、他部門(特に看護部門)と連携して共同訪問を行うことで、患者のゴール(すなわち職業復帰)を共有しながら支援していくことか可能となると考える。