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アスベスト

テーマ3.
石綿関連疾患の石綿小体・繊維の肺内分布に関する研究

研究目的

石綿ばく露によって発生するじん肺症である「石綿肺」は、両側下肺野外側から上方へ進展していくことが知られている。このため、石綿繊維あるいは石綿小体は、換気量が比較的大きい肺の下葉に多く沈着していることが想定されるが、石綿粉じんが肺の上葉と比較して下葉に多く沈着するという報告はない。

そこで、手術を行った石綿肺がん及び胸膜中皮腫症例、剖検が行われた石綿肺、石綿肺がん及び中皮腫症例の、肺の上葉、中葉、下葉に沈着している石綿小体数を算定し、同一症例での肺内石綿小体の分布について検討を行った。

考察

  • 肺内石綿小体数は症例によって異なり、35~1,740,957本/gと大きな相違があるため、上葉/下葉の比により、どちらに多く石綿小体が存在するかを検討したところ、石綿肺、石綿肺がん及び中皮腫において石綿小体数の分布には相違がなく、中葉を含めてその分布は一定であった。
  • 症例によっては、上葉あるいは下葉のいずれかに石綿小体数が多かったが、101片側肺を総合的に評価すると分布に差はなかった。
  • 石綿肺がんと認定された症例では石綿小体数が5,000本/g未満の症例は23.7%であったが、中皮腫症例では37.5%であり、中皮腫では有意(p<0.05)に石綿小体数が少なかった。この傾向は、左右あるいは上・下葉のどの部位でもほぼ同じであることがわかった。
  • 今回検討した症例について、肺内石綿小体数別に上葉・下葉どちらに多いかを検討した。一般人のばく露レベルである1,000本/g未満では、上葉が10例、下葉が14例でより多く、職業性石綿ばく露が明らかであるとはいえない5,000本/g未満では、上葉が23例、下葉が19例であった。また、1,000本/g未満では下葉に、5,000本/g未満では上葉に多く、一の傾向はなかった。
  • 一方、大量ばく露と考えられる100,000本/g以上では、上葉に多い例が19例、下葉では18例であり、上葉の方が下葉よりも多かった。肺内石綿小体数が最も多かった石綿肺症例でも、上葉で1,429,971本/g、下葉で1,125,959本/g本と上葉に多く、典型的な石綿肺所見を呈した症例においても下葉ではなく、上葉に石綿小体が多い結果であった。
  • 今回の検討結果から、石綿粉じんの分布は呼吸効率の大きい下葉とそうでない上葉において差はないものと考えられた。

結論

石綿肺、石綿肺がん、中皮腫症例の肺内石綿小体の分布を検討したところ、左右差及び上、中、下葉の分布に差は認められなかった。

石綿肺は、両側下肺外側に初発するが、この部位と石綿粉じんの沈着率に関連があるとは結論できなかった。