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筋・骨格系疾患

知っておきたい腰痛の知識1 季刊ろうさい_VOL.5 P24-31 掲載
ぎっくり腰を代表とする非特異的腰痛に対しては、画像所見の不用意な強調と安静の強要は避けるべき!

1 腰痛とは?

「腰痛」とは疾患(病気)の名前ではなく、腰背部~臀部を主とした痛みやはりなどの不快感といった単なる症状の総称です。一般に坐骨神経痛を代表とする下肢(脚)の症状を伴う場合も含みます。これが今のところ世界標準の定義です。

2 特異的腰痛と非特異的腰痛

原因の病気が確定できる特異的腰痛は、プライマリケアを受診する腰痛患者の15%くらいの割合といわれています。その内訳ですが、腰痛自体よりも坐骨神経痛を代表 とする脚の痛みやしびれが主症状の疾患である症候性の腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症がそれぞれ4~5%、高齢者の骨粗粗症の方に多い圧迫骨折が約4%、結核菌も含む細菌による背骨の感染(感染性脊椎炎)や癌の脊椎への転移など背骨の重篤な病気が約1%、尿路結石や解離性大動脈瘤など背骨以外の病気が1%未満です (図1)。

腰痛の原因(疾患)

(1)特異的腰痛の代表例

原因の病気が確定できる特異的腰痛は、プライマリケアを受診する腰痛患者の15%くらいの割合といわれています。その内訳ですが、腰痛自体よりも坐骨神経痛を代表とする脚の痛みやしびれが主症状の疾患である症候性の腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症がそれぞれ4~5%、高齢者の骨粗粗症の方に多い圧迫骨折が約4%、結核菌も含む細菌による背骨の感染(感染性脊椎炎)や癌の脊椎への転移など背骨の重篤な病気が約1%、尿路結石や解離性大動脈瘤など背骨以外の病気が1%未満です(図1)。
以下、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症について簡単に説明します。

①腰椎椎間板ヘルニア
椎間板が突出あるいは脱出し、主に坐骨神経の始発駅部分である腰の神経(主に神経根)が刺激されることにより症状が生じる疾患です(図2-a)。若年~中年層にみられる坐骨神経痛は本症が原因である可能性が高いです。他人(病院では医師)が、仰向けに寝た状態で症状がある方の足を、膝のうらを伸ばしたまま少しずつ挙げていった時、坐骨神経痛が強まり途中で挙げられなくなったら診断はほぼ確定します(専門的には下肢伸展挙上テスト陽性といいます)。これを1人で判断する場合には、椅子などに浅く腰掛けた状態から症状がある方の足を伸ばしたまま少しずつ挙げてみて、坐骨神経痛が強まることで判断できます。中には痛みのため、体が横に傾いたままになってしまうこともあります(専門的には疼痛性側弯といいます)(図2-b)。

図2-a 腰椎椎間板ヘルニアの概要
腰椎椎間板ヘルニアの概要

図2-b 症候性の腰椎椎間板ヘルニアにおける症状の特徴

症候性の腰椎椎間板ヘルニアにおける症状の特徴

②腰部脊柱管狭窄症
腰骨(腰椎)の加齢変化に伴い、腰の神経(神経根および馬尾)が圧迫されることに起因します。高齢の方で、背筋が伸びた姿勢になる立ちっぱなしや歩行中に下肢の痛みやしびれが生じ、腰が少し前かがみになる椅子に座っている時、横向きで寝ている時、自転車に乗っている時は楽であるといった場合は本症が疑われます。背筋を伸ばした姿勢では、腰の神経の圧迫が強まり神経組織の血液循環が悪くなりますが、逆に少し前かがみになると神経の圧迫が減るからです(図3-a)。特に、歩行中に症状が悪化し一時的に歩けなくなり、前かがみ姿勢で少し休むと再び歩きだせることを間欠跛行と呼び、本症に特徴的とされています(図3-b)。

図3-a 腰の動きと狭窄の程度(脊髄造影の側面像)
腰の動きと狭窄の程度(脊髄造影の側面像)

図3-b 間欠性跛行とは
間欠性跛行とは

(2)非特異的腰痛

その多くは椎間板のほか椎問関節、仙腸関節といった腰の関節部分、そして背筋など腰部を構成する組織のどこかに痛みの原因がある可能性は高いですが、特異的、つまり、どこが発痛源であるかを厳密に断言できる検査法がないことから痛みの起源を明確にはできません。骨のずれ(すべり)やヘルニアなどの画像上の異常所見があっても、腰痛で困っていない人はいますし、逆に、腰痛の経験があっても画像所見は正常な場合もあります。つまり、画像上の異常所見は必ずしも痛みを説明できないことが理由の一つです。よって、今や「変形性腰椎症」「腰椎椎間板症」などといった画像診断を重視した病名は、臨床的な診断名としては使われなくなりつつあります。 昨年、重篤な基礎疾患のない非特異的な腰痛の患者に画像検査を行っても臨床的な転帰は改善しないことをメタ解析で明らかにし、ついつい変性、ヘルニア、すべりなどの画像所見があたかも腰痛と関連が強い印象を患者に与えてしまいがちな医療スタイルに警鐘を鳴らしている論文がLancetという権威のある医学ジャーナルに掲載されました(図4)。
ぎっくり腰を代表とする非特異的急性腰痛は、初期治療を誤らなければ多くは短期間で良くなります。しかし、一度発症すると、その後長期にわたり再発と軽快をくり返しやすいことが宿命でもあります。 以上のことを、医療者のみならず事業主や職場のスーパーバイザー、そして勤労者自身が認識しておく必要があります。

図4

画像所見が痛みの起源や予後を説明しないのがつらいところ…

  • 椎間板変性、ヘルニア、狭窄、骨棘のような構造上の異常所見は、腰痛症状のあるなしにかかわらず、一般集団によくみられる
Boden S et al:JBJS[Am]72:403-8, 1990
  • 腰痛既往者の47%は、MRI正常
Savage RA et al:Eur Spine J 6:106-114, 1997
  • 腰痛出現後12週以内のMRIにて、腰痛のエピソードを説明する
    新たな画像変化が認められる可能性は低い
Carragee E et al:Spine J 6:634-635,2006
  • 活動障害を伴う腰痛の予測因子は、MRI・椎間板造影所見よりも、
    心理社会的因子(心理的苦痛、恐怖回避の思考)
Carragee EJ et al:Spine J 5:24-35, 2005
  • 重篤な基礎疾患のない腰痛患者に画像検査を行っても臨床転帰は
    改善しない⇒ルーチンの即時的な画像検査は止めるべき
Chou R et al:Lancet 373:463-472, 2009

3急性の腰背部痛に対する対応

(1)特異的腰痛への対応

①坐骨神経痛を代表とするの下肢(脚)痛みやしびれを伴う場合
腰椎椎間板ヘルニアあるいは腰部脊柱管狭窄症を疑う必要があります。専門医の診察を受けるよう勧めましょう。特に、足の痛みやしびれに加え以下の事項がある場合は、緊急手術が必要な場合がありますので特に注意が必要です(図5)。

  • 尿(便が)が出づらい、出ない(→出なくなった場合は、発生から遅くとも2日以内の手術が必要です)
  • 足の力が入りづらい(片足立ちがしづらい、踵あるいはつま先立ちでスムーズに歩けない)

図5
図5

②危険な痛みを疑う場合
最も重要なことは、感染性脊椎炎(化膿性脊椎炎・結核性脊椎炎)や癌の転移を代表とする脊椎の腫瘍、および解離性大動脈瘤など命にもかかわりうる危険な特異的腰痛を見逃さないことです。これらを疑う要素がある場合は、早急に病院での精密検査(血液検査、MRI検査、造影CT検査など)が必要です。以下の事項がある場合は、すぐに病院で精密検査をする必要があります(図6)。

  • 安静にしていても痛い(横になっていても痛みが楽にならない)
  • 熱がある(特に夕方、微熱でも注意!)
  • 体調がすぐれない(冷や汗、動機、倦怠感など)
  • 最近理由もなく体重が減ってきた
  • 癌や結核を患ったことがある。コントロールされていない糖尿病や高血圧がある
  • 鎮痛薬を1ヵ月近く使用しているにもかかわらず腰痛が良くならない

図6 急性の腰背部痛患者の診察で最も重要なこと
急性の腰背部痛患者の診察で最も重要なこと

(2)いわゆる一般的な腰痛である非特異的腰痛への対応

以下の指導が3本柱です。

  1. ぎっくり腰を代表とする急性の非特異的腰痛が発症した場合には、予後がよい、つまり基本的には必ず良くなること(再発することはあるが、その都度新たな予後のよい急性腰痛と捉えるべき)を十分認識させ、安心感を与えるよう努めましょう。
  2. 病院でレントゲンやMRI検査が行われ、「変形している」「椎間板が減っている」「骨のずれ(すべり)がある」「ヘルニアがある」「ちょっと狭窄症がある」などと説明を受けても、これらは腰痛で困っていない人にもみられる所見で、今後腰痛で困り続けることや重労働を続けられない根拠にはならないことを認識させましょう(前述しましたが、坐骨神経痛など下肢症状も伴う場合は、専門医の意見を
  3. 腰痛があっても、痛みが良くなるまで安静にし続けるのではなく、仕事をはじめとする普段の活動のうち痛みがあってもできることは、できるだけ制限しないほうがよいことを教育しましょう(勤労者を含む住民と医師にそう指導する大規模なキャンペーンをした結果、腰痛を過剰に恐れて安静にしすぎる意識が改善され、腰痛を理由にした損害保険請求が15%以上減少したという海外での成功例があることなどから、世界的に安静重視からパラダイムシフトしました:図7)。

図7 腰痛になったら安静にすべきか?
腰痛になったら安静にすべきか?

(3)"安静"と"休養"について

ところで、なぜ腰痛では、伝統的に指導されてきた“治るまで安静を保つ”ことよりも、“痛みの範囲内で仕事はできるだけ休まず普段の活動を維持する”ことを指導したほうがが望ましいのでしょうか?
実は短期間であれば安静という患部を休める行為そのものが悪いというわけではありません。それよりも、腰痛に対する恐怖感や悲観的・破局的な考え、そして身体を動かすことへの不安感が強まり普段どおり活動することを回避することが、かえって腰痛が慢性化することや再発を繰り返すことに深く関与していると考えられるようになったからです(図8)。
腰痛は、多くの人が経験する生活習慣痛で繰り返しやすい特徴を持つものではありますが、前述した感染や癌など悪い病気が原因の危険な腰痛ではないぎっくり腰などの単なる腰痛(非特異的腰痛)は、「決して恐れるものではなく、痛みがあっても心配せずできるだけ普段どおりに仕事や生活をしましょう」という安心感と希望を与える指導をしたほうが、腰痛に悩ませられる危険性が減ることがわかってきました。加えて、業務上疾病発生件数で最も多い腰痛に伴う休職率も減らすことができるものと期待されます。
一方、仕事に支障をきたす腰痛にはストレスを代表とする心理・社会的側面が強く影響することがわかってきました。過度のストレスや疲労には休養が不可欠です。腰痛があるだけでなく疲労やストレスが蓄積していると判断できる勤労者に対しては、“腰痛のために休ませる”のではなく、“ストレスや疲労(腰痛はその中の一症状)を回復してもらうために休ませる”という認識で十分な休養を与えることが肝要です。もし、病欠が発生した場合には、産業医を含む事業所側と治療者側で密に連携し、復帰しやすい環境を整えてあげましょう。

図8 腰痛の発症と恐怖回避行動(fear-avoidance model)
腰痛の発症と恐怖回避行動

(4)急性の非特異的腰痛(ぎっくり腰を含む)に対する基本的なアドバイス

①指導(助言)法
ぎっくり腰になったら、「仕事を休んで痛みが良くなるまで安静を保つ」という考え方(指導)が伝統的に主流でしたが、近年、そのことがかえって回復を遅らせること、その後の再発率が高いことがわかってきました(図9)。無理をさせる必要はありませんが、「痛みの自制範囲内でできるだけ普段の活動を維持する」よう指導しましょう。もちろん、動けないほどのぎっくり腰を患った場合には、数日程度は仕事を休ませ初期安静を保たせても構いませんが、長期間の安静を保つことは避けるよう指導しましょう。長期の安静臥床は、心理的に腰痛に対する恐怖感を増すという悪影響があるだけでなく、筋肉や骨の萎縮および静脈血栓症をもたらすからです。もし、発症直後に痛みが強く、デスクワークや軽作業ならなんとかできても腰に負担のかかる重労働をさせるには厳しく、現場の戦力にならない期間がある場合には、短期的に無理のない作業のみ従事させるか、あるいは腰痛の治療としてではなく休養目的として休ませることを検討しましょう。

②腰痛ベルト
腰痛ベルトは、着けた時のほうが痛みが和らぎ、普段の活動を維持することの助けとなるなら装着することは決して悪くはありませんが、長期にわたり習慣的に装着させることは望ましくありません。

③鎮痛薬と湿布
胃潰瘍の経験があるなど胃が弱い、腎臓の機能が悪い、気管支喘息があるなど鎮痛薬を使用しづらい場合を除いて、早めに鎮痛薬を定期服用することを勧めましょう。局所はどちらかというと、冷やすよりも温めるほうがよいとされていますが、本人にとって気持ちがよければ冷湿布を併用させても構わないでしょう。

図9 急性の非特異的腰痛に対する指導(助言)は?
急性の非特異的腰痛に対する指導(助言)は?

引用および参考文献等

  1. 松平浩ほか:社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル:厚生労働省・中央労働災害防止協会,pp25-28, 59-60, 2009
  2. 松平浩:知っておきたい腰痛と腰部脊柱管狭窄症の知識(動画コンテンツ).http://ds-pharma.jp/mail/u/1?p=GStGlrChtXJA4x-e4CUhBwZ
  3. 松平浩:(特集)腰痛に負けない!NHKテレビテキスト「きょうの健康」2009年11月号. pp 4-21,NHK出版,東京, 2009.
  4. 松平浩:坐骨神経痛の診断学.医道の日本713 :27-32, 2003
  5. 松平浩:腰部脊柱管狭窄症とプロスタグランジンE1製剤について.東京都医師会雑誌60 : 1955-1963,2007
  6. 松平浩:職場での腰痛には心理・社会的要因も関与している―職場における非特異的腰痛の対策―.産業医学ジャーナル33 : 60-66,2010
  7. 松平浩ほか:腰背部痛―急性腰背部痛のアプローチ法―.婦人科治療94・増刊:749-756, 2007
  8. 松平浩.今日の治療指針2010年版「いわゆる腰痛症(急性腰痛症を含む)」,中村利孝編集(整形外科分野), pp847-848,医学書院,東京, 2010