感覚器障害
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新たに得られた知見等

新たに得られた知見及び予想していなかったが今回研究を進めてきて得られた知見

 今回の研究の成果として、網膜症の病期が進行するにつれ糖尿病のコントロールが良好になる傾向が明らかとなった。病期の進行とともに受診機会が増加し、患者の糖尿病に対する意識の向上がみられる為と考えられる。就業者を、より早期の時点で適切な教育・治療を受け易い環境に置くことが重要であると痛感する。我々は、病院を受診するために仕事を休みづらい就業環境を改善することが、糖尿病網膜症の進行予防の第一歩であると考えており、今後も精力的に啓蒙を行っていく予定である。
 また、硝子体手術群では、治療によって有意に視力の改善を認めているものの、依然として再就職を達成するには困難な視力にとどまっている例が多い。また、治療開始時期が早いほど予後が良好であるということが今回明らかとなったが、視力良好な経過観察群の患者においても職場でのストレスの上昇を感じているという結果が判明しており、これは仕事を休んで病院を受診するという行為が労働者にとってハードルの高い行為となっていると考えられる。
 アンケート対象症例全体の70%の症例が内科へ通院していたが、硝子体手術に至るほどの重篤な症例でも40%しか眼科への通院歴がないことが分かった。患者本人のみならず内科医への啓蒙を行えば、内科のみに通院していた30%の症例の網膜症の進行は防げる可能性がある。従って可能であるならば、定期健診で糖尿病と指摘された場合は内科と眼科の受診を義務化すべきと考える。
 中間報告時に、糖尿病網膜症に対する「抗血管内皮細胞増殖因子(抗VEGF)抗体」(商品名:アバスチン)の眼内投与の臨床治験を開始する由を述べたが、その結果も判明している。本治療法は重症糖尿病網膜症、新生血管緑内障、糖尿病黄斑浮腫に対し多くの症例で短期的には劇的な効果を示すが、40%の症例では病変の再燃を認め永続的な治療法では無いことが分かった。しかし、このアバスチンを用いた新しい治療法の効果は、視力改善およびQOL改善において当初の予想をはるかに超えるものであり、QOL改善の一翼を担う新しい治療方法に今後確立していくものと期待される。現在は臨床試験に限定されているが、新しい治療法を確立し、その成果をより広く応用することにより糖尿病網膜症患者においてはこれまでの治療に比べてより経済的、時間的に負担の少ない治療が可能となり、新しい治療概念および新たな「就業と治療の関わり」を提案できると確信する。
 また、薬物療法の進歩とともに、硝子体手術も従来の切開創に比べ小切開で行えるような低侵襲のシステムが完成されつつある。この方法であれば、手術侵襲の低減化や入院期間の短縮化が期待でき、早期の職場復帰が可能となるため、就業を持続するために今後積極的に普及すべき方法であると考える。

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