独立行政法人 労働者福祉機構
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  振動障害とは、さく岩機、鋲打機、チェンソー等の振動工具を取り扱うことにより、身体局所に振動ばく露を受ける業務に従事する労働者に発生する疾病です。
  また、現在の通達では次の1および2の要件を満たし、療養を要すると認められるものは、業務上の疾病として取り扱うことになっています。
 1 振動業務に相当期間従事した後に発生した疾病であること。
 2 次に揚げる要件のいずれかに該当する疾病であること。
 
(1)手指、前腕等にしびれ、痛み、冷え、こわばり等の自覚症状が持続的又は間けつ的に現われ、かつ、次のイからハまでに掲げる障害のすべてが認められるか、又はそのいずれかが著明に認められる疾病であること。
イ 手指、前腕等の末梢循環障害
ロ 手指、前腕等の末梢神経障害
ハ 手指、前腕等の骨、関節、筋肉、腱等の異常による運動機能障害
(2) レイノー現象の発現が認められた疾病であること。
 
 独立行政法人「労働者健康福祉機構」では、平成9年(当時は労働福祉事業団)、山陰労災病院に振動障害センターを開設したのを皮切りに、4つの労災病院(岩見沢、岩手、山陰、香川)に振動障害センターを設置し、振動障害の研究、健康診断及び診療に取り組んでおります。
 平成16年4月1日より山陰労災病院には振動障害研究センターが設置されました。他の労災病院も含め、振動障害の健康診断を平成14年度は4,988件実施(1次検診と2次検診の合計)しており、振動障害の患者様も延べ33,024人(入院3,214人、外来29,810人)が受診されております。
 このホームページでは、振動障害の診療等に携わっておられる労災指定医療機関の医師や産業医の方々に研究や診療の参考として頂けるよう、労災病院に蓄積された振動障害の臨床データを集積したデータベースの分析結果を掲載します。
 また、「振動障害の診断と治療」も併せて掲載します。


振動障害 分析分類
1)各ステージ毎と他覚所見等の関係(初診)
2)各ステージ毎と他覚所見等の関係
3)各ステージ毎と他覚所見等の関係(2000年)
4)各ステージ毎と治療の関係
5)各ステージ毎と合併症(右手根管症候群−左肘部管症候群)との関係


振動障害の診断と治療
T 振動障害とは
  1)振動障害を起こすような局所振動を発生させる工具

U 診断方法
 1 末梢循環障害
  1)症状
  2)末梢循環障害の診断
  3)末梢循環障害の検査
  4)手指の皮膚温検査と冷水負荷試験
  5)手指冷却負荷による手指収縮期血圧(FSBP または FSP)測定
  6)冷風負荷試験
  7)爪圧迫テスト
  8)指尖容積脈波

 2 末梢神経障害
  1)症状
  2)振動障害による末梢神経障害の検査
  3)振動覚検査 振動覚いき値検査
  4)痛覚
  5)温冷覚
  6)末梢神経伝導速度検査
  7)Current Perception threshold (CPT)

 3 運動器障害
  1)握力検査
  2)つまみ力
  3)タッピング検査
  4)エックス線検査

V 症度分類
  1)労働省基発第585号の症度区分
  2)国際的症度区分

W 山陰労災病院における診断基準と振動障害認定
 1 末梢循環障害
 2 末梢神経障害
 3 診断のポイント
 4 診断後の事後指導

X 治療と予防
 1 治療
 2 予防
 3 作業環境
 4 職場体操
 5 日常生活上の注意
  1)防寒、保温
  2)家庭での振動作業
  3)栄養と睡眠
  4)体操
  5)タバコ

Y 参考文献



T 振動障害とは

 
 振動障害とは局所振動による障害、すなわちチェーンソー(写真1)やグラインダーによる工具・機械・装置などの振動が主として手・腕を通して身体に伝達されることにより生じる、レイノー現象(白ろう指とも呼ばれる、写真2)を主徴とする末梢循環障害、末梢神経障害それに運動器(骨・関節系)障害の3障害である(注)。なお、これらの障害を指す場合に、手腕振動障害などという呼び方をすることもありますが、我が国では振動障害という名称が公式に使われています(国際的にはHand-Arm Vibration Hazard HAVSで統一しようとされています。)患者への影響としては、寒冷化で、手指のしびれや、冷え、蒼白発作(レイノー現象)のため、作業に支障をきたす場合があります。ゴルフ、釣、狩猟、庭の手入れなどの戸外の余暇活動が制限されることもあります。上肢の関節障害は、苦痛も大きく、上肢のしびれや痛みにより睡眠障害を生じる場合があります。
 振動障害とはあくまで局所振動による障害のことをいい、全身振動による障害とは区別しています。それは局所振動と全身振動による障害の内容が異なるからです。局所振動による障害は上述の3障害ですが、全身振動による影響は車や船酔いなどにみられる一過性の自律神経機能失調状態ですが、このような一過性の影響は全身振動による影響とは考えられていません。全身振動障害としては腰痛や内臓機能障害などが指摘されていますが、これらの障害に基づく症状と他の一般的な疾患による症状との区別ができないため、全身振動の身体に対する影響や障害はまだ十分 に解明されていないのが実状です。

写真1.振動工具を用いた作業
(木の伐採、工具:チェーン・ソー)




写真2.振動障害にみられるレイノー現象(白ろう)左手2、3、4指に蒼白がみられる




 
注)国際労働機関(ILO)では1980年の「職業病リスト」の改正に関する専門家会議の報告書で、振動障害を「振動による疾病(筋肉、腱、骨・関節あるいは末梢血管、末梢神経の障害)」と定義しています。また、1983年3月に開催されたロンドン会議(注)でも振動障害は「すべての症状が末梢性であり,循環障害(局所的な指の蒼白化、白指を伴う血管攣縮)、感覚・運動神経障害(しびれ・手指の微細運動障害など)、それに筋・骨格系の障害(筋、骨、関節疾患)」ということで合意が得られています。

1)振動障害を起こすような局所振動を発生させる工具

 
@ ピストン内蔵工具(打撃工具)
 内蔵するフリーピストンの往復運動でたがね等を打撃し、この衝撃で金属、岩石等の穿孔、切削、ハツリ等の加工またはつき固め等を行う工具です。代表的な工具として削岩機、エアハンマー、電動ハンマーなどがあります。
A 内燃機関内蔵工具(可搬式のもの)
 内燃機関(主として2サイクルガソリンエンジン)を動力源として回転するエンドレスチェーン、カッター等により加工物等を切断する工具です。この種の工具の振動は、主にエンジンの回転に伴い発生しますが、切断の際にも発生します。チェーンソー、刈払機、エンジンカッターなどがこの範ちゅうに入る代表的工具です。
B 振動体内蔵工具
 偏心モーター、振動子等を内蔵し、これによって発生した振動を利用して、つき固め、充填または打抜き、切断等の板金加工等を行う工具です。 タイタンパー、バイブレーター、振動シャーなどが代表的な工具です。
C 回転工具
 電動モーター、エアモーター等により回転するカッター、砥石等により研磨、研削、ハツリ、切断等の加工を行う工具をいい、工具それ自体は振動を発生しないが作業に伴い振動が発生します。代表的な工具としてはスインググラインダー、固定グラインダー、カッター 類などがあります。
D 締付工具
 ナット、ビス等の締め付けに用いる工具であり、締付機構のクラッチの作動に際し、振動が発生します。各種エアレンチが代表的工具です。


U 診断方法

 
もしも職業との関連が疑われたら、患者の職業、全職歴、喫煙歴やスポーツ歴を含めた生活習慣を調べることが重要です。次のような項目を調べる必要があります。

1)職業、工程、工具、使用年数、振動曝露時間 2)労働環境、寒冷  3)症状、指の蒼白発作、しびれ、関節痛、4)職業訓練、防具、健康診断受診状況に加えて患者の病歴、家族歴、社会歴、生活習慣、上肢に影響する外傷、手術歴、鑑別診断上他の疾患の既往の有無、薬物や化学物質の曝露はないか調べる。手の視診(色調、外傷、筋肉の萎縮)、触覚、痛覚、手の巧緻性、radial arteryの脈や血圧を記録する。
振動障害の診断と程度を調べるための末梢循環障害、末梢神経障害、運動器(骨・関節系)障害に関する各種の検査は専門家のいる施設で行うのがよい。
検査には次のようなものがある。

(末梢循環障害)
安静時皮膚温および寒冷負荷試験
手指冷却負荷による手指収縮期血圧(finger systolic blood pressure FSBP)測定
爪圧迫
指尖容積脈波
冷風負荷試験
その他 サーモグラフィー 皮膚血流量、血管造影

(末梢神経障害)
振動覚(または振動覚いき値)
痛覚
温度覚(温・冷覚)
神経伝導速度
その他 ニューロメータ−

(運動器障害)
握力
上肢骨関節(肘、手関節)エックス線写真
つまみ力
タッピング

 
1 末梢循環障害
1)症状
 レイノー現象は寒冷期の早朝、作業の休憩中、また冷雨に濡れるとかにより全身が冷却された時に発作的に手指が蒼白になる現象のことを言います。同じような条件下であっても生じないこともあります。レイノー現象の持続時間は個人により様々ですが、多くの場合は数分であります。文献的には、稀には30分程度持続することもあるとの記載がありますが、経験したことはありません。レイノー現象の発作時には無感覚となります。レイノー現象の消退時に、多くの例では、しびれや疼痛が指に生じ、皮膚の色調は多くの例では反応性充血で赤くなりますが、ときには紫色化することもあります。レイノー現象の初発部位は振動曝露を最も強く受けた指であり、症状が進行するにつれて出現する部位がより中枢側に広がり、さらには指本数も増えてきますが、母指に出現する例はかなり進行した例であります。出現頻度は年1〜2回の例から週数回の例と様々であります。
レイノー現象は振動障害だけにみられる症状ではありません。レイノー現象をきたす疾患はいろいろあり、またその頻度も高いため、診断には慎重な態度が必要です。表1にレイノー現象をきたす疾患の簡単な分類表を示します。手腕振動症候群はレイノ一病(体質的なもので振動曝露が原因ではない、)との鑑別が困難なので診断上に問題があります。二次レイノ一現象として強皮症などのcollagen disease、動脈硬化、糖尿病、外傷、ビニールクロライドなどの化学物質、ベータブロッカーなどの薬物、ポリオ、脊椎空洞症などでもみられる。振動障害で手指に潰瘍や壊死が起こることはほとんどないと考えられます。従って、振動障害患者にそのような所見が認められる場合は、強皮症、動脈硬化、他疾患との十分な鑑別が必要となります。
振動障害のレイノー現象のメカニズムはまだよく解かっていません。長期間の振動の刺激による指の細動脈の平滑筋、内皮の肥厚や内腔の狭窄が基盤にあると考えられます(写真3)。

表1 二次性レイノー現象をきたす主な疾病の分類(亀山ら)



写真3.振動刺激による指細動脈の変化
A軽度:筋層の肥厚  B中等症  C高度:内膜増殖と狭窄



 
2)末梢循環障害の診断>
 振動障害に比較的特徴的とされる症状はレイノー現象であるため、やはり何よりもレイノー現象出現の有無の確認がキーポイントとなります。レイノー現象は誰にでも簡単に判断できるものではありません。寒い時などに単に手全体が白っぽくなっているのをレイノー現象と勘違いしている例も多々見受けられますので、患者が手が白くなると言ったからといって直ちにレイノー現象と速断してはなりません。レイノー現象かどうかの確認には、カラー写真をとってもらうなどして客観的に確認する方法もあります。写真を撮る場合、顔を画面の中に入れて手と同時に撮影したものと、両手だけの写真があることが理想的です。写真などがない場合、蒼白化の起こり方、初発の時期、状況、部位、その後の部位の広がり頻度の変化などを詳細に聴取して、

  @相当の手腕振動への曝露歴があり、
  A実際に振動障害によるレイノー現象であることが出現態様や部位各種検査から想定され、
  Bレイノー現象をきたす他の疾患が鑑別診断によって十分除外され、

振動障害によるレイノー現象と見て矛盾がないかどうかを判断する必要があります。

 
3)末梢循環障害の検査>
 第一次健康診断としては、常温下での手指の皮膚温検査や爪圧迫テストがあります。また、第二次健康診断として手指を5℃または10℃の冷水に漬けてから皮膚温測定や爪圧迫テストを行います。二次健康診断では医師が必要と認めた検査を行なうことになっていますので、指尖容積脈波、サーモグラフィー、皮膚血流量の測定などが追加して行なわれることもあります。動脈造影も必要に応じて行なわれています。このほか寒冷刺激による指動脈血圧(FSBP)の変化の測定、冷風負荷皮膚温測定、レーザードップラー血流測定などが行なわれています。

 
4)手指の皮膚温検査と冷水負荷試験>
 常温下での検査では、室温20~23℃の部屋で30分以上安静にさせた後、両手の示、中、環、小指の末節の掌側中央について適当な時間をおいて2回以上測定することになっています。喫煙により末梢動脈が収縮するため皮膚温は低下しますので、測定前1時間は禁煙させることが必要です。また検査前に手を洗うようなことも禁止すべきです。さらに、空調の送風が直接被験者にあたらないようにし、着衣に関しても寒さを感じないように、一定の条件になるように十分配慮する必要があります。
 冷水負荷試験(5℃、10分法)では写真4のように、左手(右手のみレイノー現象を訴える時は右手)を5℃±0.5℃の冷水中に手首まで漬け、示、中、環指のうち1指について、末節の掌側中央で冷却負荷開始6分目から1分毎に測定し、10分目の測定終了と同時に手を冷水から引き上げます。タオルで押えるようにして水を拭きとります。そして、さらに手を引き上げた時点より5分目と10分目にも皮膚温を測定します。

写真4.冷水負荷5℃10分法による皮膚温度測定(右手を手関節まで冷水に浸漬している)

 
皮膚温検査の判定
判定基準は林業災害防止協会(表2)が提示したものが広く用いられています。計測値の数値そのものだけで評価することには問題がありますので、他の検査も同様ですが、職歴、症状や種々の検査も加味して総合的な判断が必要です。
安静時皮膚温は検査室温、着衣量、湿度、気流等により大きく変化しますので、安静時の皮膚温の判定には温熱生理学的な配慮が必要です。冷水負荷後の皮膚温回復に及ぼす因子は、浸漬前の皮膚温、室温、冷却温度です。したがって、皮膚温の測定値そのもので判定するよりも下記のような回復率で判定する方が合理的です。回復率の判定基準はY参考文献(振動障害の現状と研究の進歩 診断法を中心として 宮下和久 他 産業医学レビュー 16 185-205 2004)を参照して下さい。

     回復率の計算式

回復5(10)分率=(浸漬終了後5(10)分目の皮膚温度ー浸漬終了直後の皮膚温度)÷
         (浸漬前の皮膚温度ー浸漬終了直後の皮膚温度)

 問題点として、5または10℃の冷水に10分間、手首まで浸漬すると被験者の苦痛が大きく、疼痛による血管収縮、血圧上昇のため、高血圧、心疾患を有する患者では不適となります。負荷条件には、わが国では5℃、10分法または10℃、10分法が用いられISOでは12℃、10分法を検討など負荷条件が統一されていません。また皮膚温度は個人差が大きく、個人の健常者でも30℃以下といった低い皮膚温を示す人があること、手指の皮膚温は環境温度つまり室温に強く影響されるため、実際には、画一的な基準を設けることは極めて困難です。個人の評価には有効でないとの指摘もあります。


表2.林業労働災害防止協会の判定基準

 
5)手指冷却負荷による手指収縮期血圧(FSBP または FSP)測定
1994年のストックホルムでの振動障害に関するワークショップで医師が直接レイノー現象を視認した場合、カラー写真で確認できた場合、FSBPの値がゼロの場合には、当該労働者にはレイノー現象が有ると判定することが合意されています。このことからもFSBPの測定が末梢循環障害の客観的判定には重視されていることがわかります。図1のように症状の強い指の基節部に粗血用のカフ、中節部に冷却用のカフ、末節部にストレンゲージを装着します。測定指の基節部に阻血用のカフを装着し上腕血圧以上の圧を瞬時に加え、指の血流を5分間遮断します。この血流遮断している間、中節に装着した冷却用のカフに一定温度に調節された冷却水を循環させ指を冷却します。5分間の冷却直後に阻血用のカフの圧を抜き、血流再開時の指の血圧を末節に装着したストレンゲージの抵抗の変化から、指の収縮期血圧を読み取り、10℃冷却時FSBPの35℃負荷時FSBPに対する割合(FSBP%)を求める検査法です。レイノー現象のみられる場合、冷却による血管れん縮により血流が低下しFSBPが低下します。


図1.FSBPの測定方法   カフとストレンゲージの装着




図2.FSBPの測定
   
冷却した指のFS(B)Pは44mmHg冷却しない対照
指のFS(B)Pは90mmHg



 
 判定基準としては、FSBP%の値が75%以下(室温24℃)で異常、重症例では60%以下と提案されています。
 尚、末梢循環障害の検査では室温が重要な測定条件となりますので、室温の管理が重要です。つまり、同一被験者であっても室温が異なれば反応が大きく変化しますので、室温の管理はきわめて重要です。ISO案では、FSBPの測定は室温22℃±1℃、冷却負荷10℃5分間の条件で測定することが検討されています。

 
6)冷風負荷試験
 冷水負荷皮膚温テストは測定したい指1本だけを5℃の冷風(風速 6 ±0.5 m/sec )で15-20分間冷却します。冷水負荷試験の苦痛が多きいため苦痛の少ない冷風を用いて皮膚温度の回復をみるものです。手を冷却するの間の指腹部の皮膚温を放射温度計で測定しグラフに記録し、ハンチング現象の有無で判定します。図3に記録の実際例を示します。室温24℃で振動工具使用者にみられる冷風負荷皮膚温変化パターンを示す。しますが、振動障害ではハンチング現象がみられないか遅れて出現します。このハンチング現象の出現も室温に左右されますので、室温の管理が重要です。

図3.冷水負荷皮膚温テスト



 
ハンチング現象:生体が冷却されると一旦は末梢血管が収縮しますが、やがて(正常であれば数分以内に)拡張するようになります。冷却中は収縮と拡張を繰り返します。この現象をハンチング現象と言います。

末梢循環障害の検査の比較
山陰労災病院のこれまでのデータより末梢循環障害の検査の敏感度・特異度の比較を行うと以下のとうりでした。すべての測定は、室温24℃で行いました。
    表  冷却負荷テストの敏感度と特異度
                    敏感度        特異度
     FSBP% (10℃、5分)    88.2%      76.8%
  冷水負荷皮膚温テスト(5℃、10分)
    5分率            5.9%       97.7%
    10分率           50.0%      69.8%
  冷風負荷皮膚温テスト(5℃、15-20分)
                    85.3%       55.8%
 
7)爪圧迫テスト
 常温下での検査では、左手を心臓の高さにし、示、中、環指について、1指毎に検者は拇指と示指で被検者の爪の部分をはさみ、次いで10秒間強く押さえ、はなした後、爪の退色が元に戻るまでの時間を測定します(写真5)。冷却負荷(例えば、5℃,10分法)時には、冷却負荷した手の示、中、環指のうち1指について、冷却負荷終了直後と終了5分目と10分目に同様に測定します。この際、最も重要なことは被検者の手指の力が完全にぬけていることです。被検者に力をぬくように指示し、検者の指で被検者の手指を支えるようにします。爪圧迫テストの実際を示しました。被検者が指の力を完全に抜くことが重要です。判定は爪床部の色調の回復に要する時間をストップウオッチで測定します(表2参照)。現場で簡便に行える検査ですが、回復を観る検査者の主観で左右される面があります。被検者が検査時に手指に力を入れていれば、血色の回復する時間は延長するという欠点があり、被験者の検査への協力も必要です。

写真5.爪圧迫試験


 
8)指尖容積脈波
 指尖突容積脈波とは、主に光電管方式の透過型の容積脈波計で、酸化ヘモグロビンの吸収量を測定することによって血量変化をグラフを描かせ,その波形や波高によって障害の有無を判断する検査です(図4)。 波形、波高から正常か否かを判定します。酸化ヘモグロビンの吸収量を測定していることから 客観性はありますが、血液性状を含めた、心臓から指先までの総和としての変化、つまり、心拍量、末梢動脈硬化等の複雑名影響を受ける他、測定条件にかなり左右されるといった問題点があり、これで末梢循環機能の判定には慎重な態度が必要である。

写真5.指尖突容積脈波形の測定例




 
2 末梢神経障害
1)症状
 神経障害では指のしびれや触、痛、温度知覚の低下などがみられます。これらは持続的であり、寒冷により増悪します。この病態は、長期間の振動曝露による皮膚の知覚受容体、小神経終末および末梢神経繊維の変性によるものと考えられます。
 手のしびれは頸部脊椎症、胸郭出口症候群、糖尿病、絞扼性神経障害などといった疾患で起こりますし、病気ではありませんが夜間異常感覚といったものにも注意する必要があります。日常診療で頻度の高いのはなんといっても頚部脊椎症です。中年以降に手のしびれを訴えた場合、診察時には必ず頚部脊椎症に関して詳しく検査すべきであり、絞扼性神経障害にも注意を払うべきであります。また、上腕上顆炎でも患者は手がしびれると訴えることがありますので注意が必要です。
 また、振動障害では尺骨神経障害・正中神経障害などの絞扼性神経障害が起ることがあます。しかし、橈骨神経が障害されることはほとんどありません。尺骨神経が障害された場合には環指と小指にしびれ・感覚鈍麻といった自覚症状が現われてくると共に、指の開閉運動が悪くなり、指と指との間で紙を挟む力が低下してきます。これを調べる方法としてペーパーテストが行なわれます。また親指の内転筋力が弱くなるため、親指と示指で紙を挟み力をいれるようにさせると悪い方の親指の関節が屈曲します。これをフローメンのサイン陽性と言います。このような状態になれば骨間筋や小指球筋の萎縮もみられます。このような手を鷲爪手といいます(写真6参照)。症状は環指、小指の知覚障害、環指、小指の鷲爪変形、骨間筋及び小指球筋の萎縮であり、ペーパーテスト陽性、フローメンのサインが陽性となる。肘部とか手掌部の尺骨管で神経が圧迫されて障害が現われます。肘部に障害がある場合を肘部管症候群、尺骨管に障害がある場合を尺骨管症候群といいます。尺骨神経の運動神経線維と知覚神経繊維の伝道速度検査が必須となります。

写真6.尺骨神経麻痺による鷲手
右手骨間筋の萎縮がみられる。




 
2)振動障害による末梢神経障害の検査
 第一次健康診断としては、常温下での手指等の痛覚や振動覚テストがあります。第二次健康診断としては、手指を5℃または10℃の冷水に浸漬してから痛覚や振動覚テストの回復過程を調べます。他に温・冷覚、末梢神経伝導速度検査も行われます。どの神経支配領域に知覚異常があるかを調べることも大切です。

 
3)振動覚検査 振動覚いき値検査
 振動刺激の受容体は皮膚のパチ二小体であり、刺激は知覚繊維Aβ繊維を介して中枢へ伝達される。振動動曝露により振動覚が低下することが知られています。振動覚いき値検査は、振動障害の早期診断に広く用いられている検査法です。
 被検者に軽く目を閉じさせ、両手の示、中、環指の末節の掌側中央の部位を軽く振動子(例えば、リオンAU-02等)に接触させます(写真7)。周波数は125 、 250Hzを用い、上昇法を2〜3回繰り返して、認識できる周波数を記録します。省略する時は多くの場合125HZ で測定します。写真はわが国で広く行われているリオン式振動覚計で振動覚閾値を検査しているところです。冷却負荷(例えば、5℃、10分法)時には、常温下で検査した指のうち1指について、冷却負荷終了直後と終了5分目と10分目に同様に測定します。判定基準は表2を参照ください。
 この方法の問題点としては、指で振動子を接触している圧(指押圧)を一定にできないこと、被験者の主観的判断であるという問題点がある。世界的は、さまざまの測定機器が用いられ測定条件の統一が課題となっている。近年、これまでの測定機器の欠点を改善したHAVLab社Tactile Vibrometerも用いられている。

写真7.振動覚検査(リオンAUを用いた右示指の測定)
右手骨間筋の萎縮がみられる。




 
4)痛覚
 被験者に目を閉じさせ両手の手指中節背側部を痛覚計の先で軽く4-5回突き、痛覚の有無を検査します。痛覚計の先端による、感染の問題もありますので十分な注意が必要です。冷却負荷終了直後と終了5分目と10分目に同様に測定することもあります。判定基準は表2を参照ください。

 
5)温冷覚
 測定方法としては、Minnesota Thermal Disc を用いる方法、HAVLab社Thermal aesthesiometerを用いる方法等があります。指先の温覚を刺激する最小温度および冷覚を刺激する最高温度を測定し、温,冷覚を感知しない温度域(温知覚の温度から冷覚の温度を引いた値)つまり中間帯(neutral zone)を測定します。振動障害では、温覚および冷覚の鈍磨、中間帯が広くなります。中間帯21℃未満を正常とする英国の基準があります。図5に測定例を示した。

図5.Thermal aesthesiometerによる温度(温冷覚)の測定
振動障害患者neutral zone >21℃



 
6)末梢神経伝導速度検査
 これは末梢神経障害の診断には重要で不可欠の検査法です。振動障害の場合、正中神経と尺骨神経が障害されることがあるので、それらの神経障害の有無を把握するために、神経伝導速度をそれぞれの神経について測定する必要があります。指−手関節、肘−手関節間を測定します。運動神経伝導速度検査と感覚神経伝導速度検査の2つの方法があります。 運動神経伝導速度検査は、運動神経を躯幹に近い近位部とそれから離れた(すなわち手足に近い)遠位部でそれぞれ刺激して興奮が伝達する時間を測定し、2点間の距離を伝達時間で除して求めます。感覚神経伝導速度検査は,手指を電気的 に刺激して、同一神経の離れた2点間で電位を記録し、その間の伝導速度を求める順行性の活動電位測定が一般的に行なわれています。末梢神経伝導速度は皮膚温が低いと低下し、また加齢によっても低下します。したがって、検査時には皮膚温に留意し、保温に心掛けるとともに、判定にあたっては加齢による影響を考慮しなければなりません。
 この検査法では末梢神経障害による神経症状がなくても異常を発見することができます。 振動障害の場合、正中神経と尺骨神経が障害されることがあるので、それらの神経の障害の有無を把握するために、神経伝導速度をそれぞれの神経について測定する必要があります。もし、患者がしびれを訴えて、神経伝導速度検査がまったく正常である場合は、頚部脊椎症の可能性がありますので、その方の精査をすべきです。

 
7)Current Perception threshold (CPT)
この測定装置はNeurometer CPT / C (ALTUS Neurotron, Inc.)と言い、刺激電極としては1対の直径10mmの円盤状金メッキ電極を使用し、刺激は2000、250、5Hzの3種類の周波数の正弦波で、電流の強さは0〜9.99mAである。電気刺激を0〜10mAの強さで皮膚に与え、被験者が刺激による感覚が生じた時の電流値を記録する方法で、詳しく調べる時には、検者、被検者ともにいつ、どの強さの電気刺激が与えられたかがわらない仕組みになっています。2000Hz刺激では直径5〜15μのAβ線維(機能としてはtouch、pressure)、250Hz刺激では直径1〜5μのAδ線維(機能としてはmechnoreceptors、pressure、temperature、first pain)、5Hz刺激では直径0.4〜1.5μのC線維(機能としてはpolynodal nociceptor、temperature、slow pain、postganglolionic sympathetic)をそれぞれ選択的に刺激すると言われており、SCVでは検査することが出来なかった小神経線維の評価も可能になります。振動障害への応用は今後の研究が必要です。

 
3 運動器障害
 一般的には骨・関節の変化は加齢現象で起る変化が主体ですが、長期間に渡る重筋肉労働、スポーツなどにより変化が修飾されます。また、当然のことながら、痛風、慢性関節リュウマチなど骨・関節に変化をきたす疾患によっても加齢現象で起る変化が修飾されます。振動工具使用者だけに特徴的にみられる変化というものはありません。したがって、 加齢や重筋肉労働等による変化とも区別することができません。
 現在では肘関節までの障害を振動障害として認め、肩関節の障害は認めていません。その第1の理由は肘関節の障害は振動工具使用者に多く認められるが、肩関節の障害の発生率は高くないことによります。第2の理由は振動刺激により骨・関節の障害が生じると仮定した場合、現在の研究結果では手に伝達された振動の強度は中枢に行くにつれて減衰し、その影響はせいぜい肘関節ぐらいであると考えられているからです。振動刺激により、骨関節に障害が生じるという考え方よりも、衝撃によって骨関節に変化が生じると考えられています。
  運動機能の第一次健康診断としては、最大握力(瞬発握力)、5回法による維持握力があります。また、第二次健康診断としては、60%法による維持握力、つまみ力、タッピングを行います。また、必要に応じてエックス線写真撮影も行います。
 
1)握力検査
 スメドレー式握力計を用います。直立し、腕を下方に伸ばしたまま最大努力させ、5秒間隔で左右交互にこれを5回繰り返します。このうち、1回目及び2回目の値のうちの大きい方を最大握力(瞬発握力)とします。この最大握力と4回目及び5回目の値のうち小さい方の値との差を5回法による維持握力といいます。60%法による維持握力は、椅座位で握力計を机の上にのせ、肘を90°に曲げた姿勢で手掌を上に向け、最大握力の60%の値を被検者に針を見せながら保持させ、維持できる時間を測定します。判定基準は表2を参照ください。

 
2)つまみ力
 労研エスメス式つまみ力計を用います。拇指を下にし、測定指を上にし、測定指の遠位指節間関節を伸展させ、他の指を軽く伸ばした状態でつまみ力を測定します。これを拇指と示指、中指及び環指間について行います。判定基準は表2を参照ください。

 
3)タッピング検査
 労研エスメス式タッピング測定器を用います。椅座位で左手、右手交互に示指及び中指を1指ずつ30秒間できるだけはやく打たせて、10,20,30秒値を測定します。これらの検査は個人差、年齢差が顕著である上、被検者の協力がないと正確な値を得るのも難しいほか、骨・関節障害とは必ずしも結びつくわけではありません。判定基準は表2を参照ください。

 
4)エックス線検査
 振動障害に特有な骨・関節障害はありませんが、手関節、肘関節の変化(写真8)がエックス線検査で明らかに認められ、出現時期等から長期に渡る振動工具の使用との間に明らかな相当因果関係が存在すると考えられる時に振動障害の影響を考えるべきでしょう。
 エックス線上、異常、正常の判読はそんなに容易ではありませんので、判読は複数の医師で行なうのが普通です。骨・関節の変化は加齢現象に基づくものが圧倒的に多いため、やはり加齢現象による変化との鑑別が最も大切です。その他、慢性関節リュウマチのような疾患との鑑別も重要です。

写真8 肘関節のレントゲン写真(振動工具を長年使用した作業者の肘関節障害)



 
V 症度分類
1)労働省基発第585号の症度区分
 医学的所見と対応して疾患の状態を軽度から重度にまで段階付けた分類のことでそれぞれの段階に適した治療を進めるための指針となるもののことです。
 現在我が国で使われている症度分類は昭和61年10月9日付け基発第585号(「振動障害の治療指針」について)です。
 この症度区分は、振動障害を末梢循環障害、末梢神経障害、骨・関節系の運動器障害と見る現在の振動障害の医学的知見を前提にしている点が、従来の症度分類に比べて大きな特徴と言えます。その他には、自覚症状と検査成績が必ずしも相関しないことから「自覚症状・身体所見」と「検査成績」に分けて症度区分しているため、治療効果と症状経過が正確に把握できるようになり、その結果、合理的な療養計画が可能となったことも特徴として指摘できます。


図3 症度分類



 
2)国際的症度区分
 振動障害の国際的な照度分類としては、ストックホルムスケールが(表4,5)使用されています。振動障害の疫学的研究にはこの分類を用いるという国際的な約束がなされています。


 
表4 振動障害の血管障害(レイノー現象)の症度分類(Stockholm workshop scale)
※症状は左右の手を別々に判定する。

stage 0   レイノー現象なし。
stage 1   1指又はそれ以上の指の先端にレイノー現象がみられる。
stage 2   1指又はそれ以上の指の末節又は中節(稀に基節)に時々レイノー現象がみられる。
stage 3   ほとんどすべての指のすべての節にわたりレイノー現象がしばしばみられる。
stage 4   症度3の状態に加え、指先端の皮膚に栄養障害がみられる。

注)振動障害においてstage 4はきわめて稀であり(Stockholm workshop 94 Hand-Arm Vibration Syndrome)といわれています。


 
表5 振動障害の末梢神経の症度分類(Stockholm workshop scale)
※末梢神経障害の症度は、左右それぞれの手について判定する。

stage0SN   振動に暴露があるが症状なし。
stage1SN   間歇性のしびれ。痛みを伴う場合もある。
stage2SN   間歇性あるいは持続性のしびれ。触覚鈍麻。
stage3SN   間歇性あるいは持続性のしびれ。触覚識別能の減退または手先の緻性の減退。


 
W 山陰労災病院における診断基準と振動障害認定
 山陰労災病院では振動障害の診断に際しては、ストックホルムスケールを基本に用いています。  診断の項で述べた詳細な問診を行い、さらに必要な検査を行なって自覚症状と検査値によってストックホルムスケールにより症度を決定します。除外診断のため、リウマチ因子、血沈の検査、頚椎のエックス線写真を行います。必要によっては、血管造影(閉塞性血管障害が疑われた場合)、ミエログラフィー(頚部脊髄症が疑われた場合)を行う場合もあります。


 
(注)ストックホルムスケール(Stockholm Workshop scale)
 それまで欧米で使用されていた、振動障害のTayler-Pelmearの分類をもとに新しい研究成果を踏まえて改変した国際的な振動障害症度分類です。1987年に発表されました。血管障害(Gemne G, et al. The Stockholm Workshop scale for the classification of cold-induced Raynaud’s phenomenon in the hand-arm vibration syndrome (revision of the Taylor Pelmear scale) Scand J Work Environ Health 13,1987, 275-278)と神経障害(Brammer A, et al. Sensorineural stages of the hand arm vibration syndrome. Scand J Work Environ Health 13,1987, 279-283)に分けて分類しています。主観的な自覚症状を基にした分類ですが、簡便であり振動障害の疫学的研究にはこの分類を用いるという国際的な約束がなされ、広く用いられています(下表1,2)。

表1 振動障害の血管障害(レイノー現象)の症度分類(Stockholm workshop scale)
※症状は左右の手を別々に判定する。
stage 0   レイノー現象なし。
stage 1   1指又はそれ以上の指の先端にレイノー現象がみられる。
stage 2   1指又はそれ以上の指の末節又は中節(稀に基節)に時々レイノー現象がみられる。
stage 3   ほとんどすべての指のすべての節にわたりレイノー現象がしばしばみられる。
stage 4   症度3の状態に加え、指先端の皮膚に栄養障害がみられる。
注)振動障害においてstage 4はきわめて稀であり(Stockholm workshop 94 Hand-Arm Vibration Syndrome)、あればむしろ他の疾患を疑うべきでありstage 4 を削除すべきであるという意見もあります。山陰労災病院ではstage 4の症例はこれまで1例もなかった。

表2 振動障害の末梢神経の症度分類(Stockholm workshop scale)
※末梢神経障害の症度は、左右それぞれの手について判定する。
stage0SN   振動に暴露があるが症状なし。
stage1SN   間歇性のしびれ。痛みを伴う場合もある。
stage2SN   間歇性あるいは持続性のしびれ。触覚鈍麻。
stage3SN   間歇性あるいは持続性のしびれ。触覚識別能の減退または手先の緻性の減退。

 
1 末梢循環障害
 前述したように、振動障害に比較的特徴的とされる症状はレイノー現象であるため、やはり何よりもレイノー現象の有無の確認がキーポイントとなります。レイノー現象かどうかの確認には、カラー写真をとってもらうなどして客観的に確認する方法もあります。写真を撮る場合、顔を画面の中に入れて手と同時に撮影したものと、両手だけの写真があることが理想的です。写真などがない場合、蒼白化の起こり方、初発の時期、状況、部位、その後の部位の広がり頻度の変化などを詳細に聴取して、
   @相当の手腕振動への曝露歴があり、
   A実際に振動障害によるレイノー現象であることが出現態様や部位各種検査から想定され、
   Bレイノー現象をきたす他の疾患が鑑別診断によって十分除外され、
 振動障害によるレイノー現象と見て矛盾がないかどうかを判断する必要があります。問診による自覚症状を主体に、FSBP%の値または冷風負荷のパターン主体に指尖容積脈波、サーモグラフィー、爪圧迫試験の値も参考に診断しています。山陰労災病院では冷水負荷5℃、10分法による皮膚温度測定は、振動障害患者受診者に高齢者が多く、高血圧や心臓疾患の既往者が多いため、循環器系の負荷を考慮して現在行っていません。
 注意深い問診と検査結果によりストックホルムスケールを決定いたします。
 検査結果とのストックホルムスケールによる症度との関連は下記のように考えています。
stage 2   FSBP% 75%以下 または 冷風負荷境界または異常パターン
stage 3   FSBP% 60%以下 または 冷風負荷の異常パターン
(注 FSBP%の基準値は室温24℃での値である。)

 
2 末梢神経障害
自覚症状(しびれ)と診察所見、振動覚、温・冷覚検査、神経伝導速度、握力、つまみ力、タッピング等の検査により診断しています。
1)stage 1SN
 しびれがあるが、診察による触覚および痛覚の低下、振動覚いき値の上昇や温・冷覚検査のニュートラルゾーンの拡大がみられない(1つの検査で、軽度所見がみられる場合もある)
2)stage 2SN
 しびれがあり診察による触覚および痛覚の低下、振動覚いきの上昇や温・冷覚)でニュートラルゾーンの拡大がみられるが神経伝導速度の異常や握力、つまみ力、タッピングの著しい低下はない。
3)stage 3SN
 しびれがあり診察による触覚および痛覚の低下、振動覚いき値の上昇や温・冷覚でニュートラルゾーンの拡大がみられる。神経伝導速度の異常または握力、つまみ力、タッピングの著しい低下が認められる。

 
3 診断のポイント
 振動曝露歴と自覚症状と検査結果を総合的に評価することです。検査にも振動覚いき値や温・冷覚のような主観的検査と神経伝導速度のような客観的検査があるので、両者の整合性も考慮して判断すべきです。自覚症状と検査結果、主観的検査と客観的検査の間には当然多少のギャップはあります。大きなギャップ(例えば、知覚異常を訴え、振動覚や温冷覚が測定不能にも関わらず、神経伝導速度が正常であるような場合)がある場合には注意が必要です。

 
4 診断後の事後指導
 すべて左右両手について判定し、重いほうの症度をその個人の判定とし、stage 1 およびstage 1SNは、要注意とし、振動曝露の軽減(工具の変更、工具の時間軽減、配置転換、防具使用の徹底)を行う。防寒対策、禁煙を指導します。
 stage 2以上 またはstage 2SN 以上は振動障害の認定申請を検討する。振動工具の使用を中止し、防寒対策、禁煙を指導します。 レイノー現象の程度に応じて治療計画を立てます。

 *これまでの研究でstage 3、stage 3SNは症状の完全回復は困難であることがわかっており、早期に診断し、適切な処置を行い、進行を防止することが肝要です。

 振動障害の労災認定については「 昭和52年5月28日付け基発第307号で次の1、2の要件を満たした場合に業務上の疾病として取扱うよう決められています。
 
(1)手指、前腕等にしびれ、痛み、冷え、こわばり等の自覚症状が持続的又は間けつ的に現われ、かつ、次のイからハまでに掲げる障害のすべてが認められるか、又はそのいずれかが著明に認められる疾病であること。
イ 手指、前腕等の末梢循環障害
ロ 手指、前腕等の末梢神経障害
ハ 手指、前腕等の骨、関節、筋肉、腱等の異常による運動機能障害
(2) レイノー現象の発現が認められた疾病であること。
 なお、上記認定要件を満たしている疾病であっても、その疾病について、医学的にみて他の疾患と判断できる場合などは振動障害とは認められないことになります。

 山陰労災病では、上記の基準を基に、山陰労災病院における診断基準でのべたように症度分類を行い労災認定の申請を行っています。


 
X 治療と予防
1治療
 労働省基発第585号に効果があるとされている理学療法、運動療法、温泉療法、薬物療法などがあげられています。 現実には、患者の症状、その変化に応じてこれらの治療法を組み合わせて行うことになります。後で述べる作業改善によってもレイノー現象がたびたび出現する場合薬物療法が必要となります。
 山陰労災病院での処方例は下記のとおりです。
1).末梢循環障害の治療
 @アダラートカプセル(10mg) 2カプセル分2 (立ちくらみや頭痛などの副作用がみられる。)他にAエパデールカプセル(300mg) 3錠 分3 またはBオパルモン錠(5μg) 6錠 分3も併用する場合があります。
 重症例では次のような薬物も試みられます。
 プロスタグランジン注(20μg)2-3アンプルを500mlの輸液に溶解して2時間かけて点滴静注する。
2)末梢神経障害の治療
 メチコバール錠(500μg) 3錠  分3
3)骨関節障害の治療
 整形外科的治療が必要となります。

 入院期間以外は振動業務以外の一般的労働に就きながら治療する方が治療効果の面からもよいと考えられています。また,振動障害の場合一般的な労働ができなくなるような例はほとんどありません。

 
2 予防
 振動工具使用者が、振動障害に罹患しないようにするためには、 作業管理、衛生管理、健康管理、衛生教育を合理的に行ない、労使一体の協力に基づいて初めて可能なことです。
 振動障害の予防のための作業管理振動工具使用者が振動障害に罹患しないようにするためには,まず第一に、振動曝露を無くすか軽減することであります。そのためには,振動工具を使用しない他の作業方法におきかえるか、振動作業を自動化できれば,それが一番よい方法と考えられます。それらが困難であるときには,できるだけ低振動レベルかつ軽量の工具の使用を計り、振動曝露の軽減を計る。また実際の作業面での不適切な作業姿勢の改善、適切な高さの作業台への変更、作業時間制限、作業のローテーションなどの作業面から振動曝露を軽減する方法があります。これらのことを一 括して作業管理といっています。この作業時間規制については労働省の基発で定められており遵守する必要があります。 ここでは有害作業における有害因子への曝露を減らすための一般的な作業時間管理について説明します。
    @計画的に振動工具を使用しない労働日を設定する。
    A一日の振動作業の最長作業時間の設定
    B振動作業の最長一連続時間の設定
    C振動作業の休止時間の設定
 これらのことを実行するためには、個々の振動業務が一連の作業の中で自然に作業管理基準を満足するような流れになるように、作業手順が組立てられる必要があります。そのためには、労働者のローテーションを行なう方法や、振動作業と他の作業とを組合せる方法があります。しかし、これらが適切に実行されているか否かのチェックシステムを確立しておくことを忘れてはいけません。
 防具として軟質の厚い防振手袋の着用も勧められます。この他に、防振とは関係ないですが、振動工具は騒音を発生しますので,90ホン(90dB(A))以上の騒音を伴なう作業では、必ず耳栓や耳覆いを着用する習慣をつけることが必要です。

 
3 作業環境
 振動障害には気象条件、特にその中でも気温、風などの影響があることはよく知 られていますが、振動業務を行なう作業場などについても、そうした観点からの 配慮が必要です。 屋外作業の場合には、有効に利用できる休憩設備を設置し、かつ暖房設備を整えておくことが必要です。屋内作業では気温が18℃以下にならないようにするなどの配慮が必要ですが、それが不可能な時には屋外作業の場合と同様に暖房設 備の整った休憩設備を設置する必要があります。

 
4 職場体操
 筋肉の疲労をとり、身体の健康を維持するための体操を行なうことは、振動障害の予防にも効果的であると言われています。作業開始前、作業の間の適当な時、作 業終了時に、首、肩、肘,手首,指の運動、さらに腰の屈伸, 回転を中心とした体操を行うとよいでしょう。問題はこれらの体操を毎日継続して行なうことと、 体操する時には各関節の動く範囲を最大にするように気を入れて行うことです。このような体操は単調なため継続して実行することはかなり難しいため、職場で集団として行うことが継続性を高めることになるでしょう。

 
5 日常生活上の注意
 日常生活における普段の注意の積み重ねによって健康を維持することが基本となりますが、具体的には次のような点に注意する必要があります。

 
1)防寒、保温
  振動障害は体が冷えることによって生じやすくなります。従って、寒さを防ぐことと体を暖めることが大切になります。そのためには、冬の暖房はもちろんですが、適当な衣服等によって体温の調節をはかる必要があります。寒い戸外でのレクリエーションや夏の海水浴等では身体の冷えに気をつけます。通勤のオートバイ等は、身体の冷えばかりでなくハンドルの振動もありますので、遠距離の場合は別の通勤方法を考えたほうがよいでし ょう。入浴は血行をよくし、身体を暖めるのに効果があります。

 
2)家庭での振動作業
 このごろは家庭でも、日曜大工や庭の手入れ等に振動工具を使うことが多くなりましたが、そういった場合にもなるべく振動工具を使わないようにする等の注意をする必要があります。

 
3)栄養と睡眠
 特別に振動障害予防のための栄養というものがあるわけではありませんが、栄養としてはその量と質のバランスがとれていることが必要です。また、十分な睡眠も身体の疲れをとって、翌日元気に働くことができる身体をつくるうえで大切なことであることはいうまでもありません。

 
4)体操
 振動障害の予防には、体操は特に効果があります。現在、振動障害予防のための体操としては、林業で行われているチェーンソー体操というものがありますが、特にこれでなくてはならないということはなく、一般的な体操で全身の筋肉の緊張をほぐし、血液の流れをよくし、手、腕、肩、頸、腰、足等の関節の動きをなめらかにするような体操を選び、根気よく続けることが大切です。

 
5)タバコ
 タバコを吸いますと、ニコチンが肺から血液の中に吸収され、からだの血管を収縮させ、振動障害が起こりやすくなることが考えられますから、振動業務に従事する人にとってタバコはよいものではありません。禁煙することが必要です。

 
Y 参考文献
1)振動障害Q and A
 岡田晃 那須吉郎 井上尚英
 労務行政研究所1999
2)振動障害の現状と研究の進歩 診断法を中心として
 宮下和久 宮井信行 富田耕太郎
 産業医学レビュー  16 185-205  2004
3)振動障害
 黒沢洋一
 今日の治療指針 山口徹 北原光夫 編  医学書院 45巻 2003 pp. 679
4)レイノー現象
 黒沢洋一、 那須吉郎
 整形外科有痛性疾患保存療法のコツ(上) 室田景久、矢部裕 編
 全日本病院出版会 2001 pp. 246-249
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