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感覚器障害

テーマ1.
糖尿病網膜症症例における治療別の視力予後に関する検討

DR 症例を治療開始時の治療法別に分類し、各治療群における治療経過、及び視力予後について検討した。

2004 年4 月から2009 年3 月に対象として登録された症例の中で、治療開始後(経過観察の場合は初診後)3年以上の経過観察期間を有する症例を対象とし、

過去に硝子体手術の既往を有する症例は除外した。

  • 経過観察群: 初診時に経過観察のみで治療開始と判断した症例 106例212眼
  • 網膜光凝固群: 初診時に光凝固の適応と判断した症例 87例164眼
  • 硝子体手術群: 初診時に硝子体手術の適応と判断した症例 118例156眼
硝子体手術は全例20 ゲージシステムで行い、有水晶体眼に対しては、水晶体乳化吸引術及び眼内レンズ挿入術を併施

結果①各治療群間における治療前及び治療後視力

図1
横軸は経過観察期間、縦軸は小数換算視力を示す。
●:経過観察群、○:光凝固群、▼:硝子体手術群、★:P<0.05

各群の視力について、治療開始前、治療開始1年及び3年後の小数換算平均視力は、経過観察群で1.10、1.07及び1.00、光凝固群で0.64、0.60 及び0.50、硝子体手術群で0.12、0.32及び0.27で、治療開始前の視力は先述のように、経過観察群、光凝固群、硝子体手術群の順で有意に不良であった。治療開始3年後の視力についても、3群間で有意差を認め(P<0.001)、治療開始前と同様に、経過観察群、光凝固群、硝子体手術群の順で有意に(P<0.05)不良であった。

各群の治療経過について、治療開始時に経過観察群に含まれた212眼のうち、治療開始3年後に191眼で経過観察のみが行われていたが、21眼(9.9%)では光凝固が施行された。治療開始時に光凝固群に含まれた164眼のうち、治療開始3年後に119眼で光凝固のみが行われていたが、45眼(27.4%)では硝子体手術が施行された。経過観察群に登録され光凝固が施行された症例、及び光凝固群に登録され硝子体手術が施行された症例については、それぞれ経過観察群、光凝固群として検討した。

結果②各治療群における治療前後の視力変化

図1
横軸は経過観察期間、縦軸は小数換算視力を示す。
●:経過観察群、○:光凝固群、▼:硝子体手術群、★:P<0.05

経過観察群及び光凝固群では治療開始前後の視力に有意差を認め(いずれもP<0.001)、治療開始前に比較して治療開始3年後の視力に有意な(P<0.05)悪化を認めたのに対し、硝子体手術群では治療開始前後の視力に有意差を認め(いずれもP<0.001)、治療開始前に比較して治療開始1年及び3年後の視力に有意な(P<0.05)改善を認めた。

考察

  • 治療開始前の視力は、経過観察群、光凝固群、硝子体手術群の順で、有意に不良であった。つまり、DRの病態が重症化するのに比例して、経過観察、光凝固、硝子体手術とより侵襲の大きな治療が必要となり、視力もより不良であった。治療開始3年後の視力についても、経過観察群、光凝固群、硝子体手術群の順で有意に不良であったが、経過観察群や光凝固群では、治療開始前の視力に比較して、治療開始3年後の視力が有意に悪化しているのに対して、硝子体手術群では、治療開始前に比較して、治療開始1年後及び3年後の視力が有意に改善していた。また、経過観察群では約1割の症例で光凝固を施行しており、光凝固群では約1/4の症例で硝子体手術施行を要している。これらの結果をまとめると、DRの病態が悪化するにつれて視力予後は不良であるが。硝子体手術は重症化したDRの病態を改善させ、さらに長期間安定させることができる可能性が示唆された。
  • DRの病態が重症化するにつれて、視力予後は不良であるが、硝子体手術はDRの病態を改善させ、さらに長期間安定させることができる可能性のある治療法であることが示唆された。一方で、硝子体手術を施行した症例の中でも視力予後は異なり、手術の適応時期については、今後も検討が必要であると考えられた。