独立行政法人労働者健康福祉機構 研究普及サイト

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職業性呼吸器疾患

テーマ3.じん肺の労災認定に係る研究

①平成22年にじん肺健康診断の肺機能検査および検査結果の判定等の見直しが行われた。この中で肺機能検査項目、「著しい肺機能障害あり」の判定基準の変更について、実際のじん肺患者を対象に、新旧診断基準に基づく相違と妥当性について検討した。

考察・まとめ

従来の呼吸機能判定基準ではいくつか問題点が指摘されていた。例えば著しい呼吸機能の判定基準にFEV1%が用いられているが、FEV1%は閉塞性換気障害の重症度を示す指標としては適切でないとの指摘もあり、その代わりCOPDの重症度判定には%FEV1が用いられている。同様に著しい呼吸機能障害としてV25/HTを指標としているが、ばらつきが大きいこと、また年齢による低下が大きく、日本人の年齢別V25/HTの正常予測値でみると、60歳以上において(正常予測値-1SD)が既に旧基準の著しい肺機能障害に相当する状態であった。
平成22年にじん肺健康診断の判定基準の改定が行われ、2001年に日本呼吸器学会が提案した予測式を用い、閉塞性換気障害の指標としてFEV1%および%FEV1を用いること、著しい肺機能障害の基準として%VCが60%未満であること、FEV1%が70%未満でありかつ%FEV1が50%未満であること。また、フローボリューム曲線からもとめられるV25/HTについては判断項目から除外されている。
今回の新基準への改定は、これまであった多くの問題点を解決し、患者の呼吸困難、 SGRQ等、より病態を反映できる指標になっていると考えらえた。
②じん肺は粉じんを吸入することによって生じる慢性進行性の疾患であるが、じん肺患者における呼吸困難の主因は肺気腫や閉塞性障害であり、この点においてCOPDとの共通点が多い。COPDでは持続する慢性炎症がCOPDの病態の形成、および合併症に関与していると考えられている。今般、じん肺症における炎症性マーカー等に関する関連を明らかにするため、検討を行った。

考察・まとめ

今回の検討では、管理4のじん肺患者において%FEV1の病期分類によって、高感度CRPが上昇すること、またIL-6, フィブリノーゲンなどの炎症性物質がCRPの上昇群において有意に増加していた。COPDでは持続する慢性炎症がCOPDの病態の形成、および合併症に関与していると考えられており、血中CRP, TNFα、IL-6, フィブリノーゲンなどの炎症性マーカーの濃度が上昇しており、これらとCOPDの病態との関係、心血管病変、体重減少、骨粗しょう症などのリスク上昇と関係しているとされている。
今回の研究では、高感度CRP, IL-6, フィブリノーゲン、アディポネクチンなどの炎症性マーカーがじん肺の病態と関係している可能性が示された。今後も、慢性炎症がじん肺の病態に関与している可能性について検討が望まれる。