全国の労災病院において平成15年度から平成24年4月までに診断されたじん肺合併肺がん症例180例を対象に、アンケートにより年齢、職業歴、喫煙歴、診断時のじん肺胸部X線写真分類とじん肺管理区分、肺機能検査成績、肺がんの病理組織型、診断契機ときっかけ、臨床病期、治療法等について調査した。
テーマ1.じん肺に合併した肺がんのモデル診断法の研究
①ヘリカルCTと喀痰細胞診の有効性について検討
対象と方法
結果
じん肺合併肺がん診断の契機
診断の契機では、じん肺管理健診が62例(34.4%)、じん肺管理4またはじん肺合併症のため療養中に実施した定期検査(以下、労災定期検査)により発見されたのが19例(10.6%)、その他の契機が98例(54.4%)であった。
診断契機別の臨床病期Ⅰ期の比率
診断契機別の手術の内訳
診断契機別の完全切除不可の理由
考察・まとめ
診断契機別の完全切除不可の理由
また、じん肺肺がんは管理健診や労災定期検査以外のその他の診断契機で発見される例が多く、このことが、じん肺肺がん全体の臨床病期Ⅰ期の比率や完全切除例の比率を下げる結果になっていると思われる。じん肺において早期の肺がんを発見するために、じん肺有所見者に対してはじん肺管理区分申請を積極的に行い、また経年的に管理健診を受診するように勧めることが重要であると考えられた。
②経時サブトラクション(TS)法の有用性について検討
TS法は時期の異なる2つのCR画像データを差分することにより、新たに出現した陰影を際立たせて発見しやすくする診断支援技術である。
経時サブトラクション(TS)法
結果
対象者の特徴と胸部X線写真分類
対象の年齢は53歳から94歳まで、平均74.7歳であった。主な職業歴は炭坑37例(84.1%)、金属鉱山2例(4.5%)、隧道1例(2.3%)、その他4例(9.1%)であり、粉じん作業従事歴は5年から57年、平均28.8年であった。胸部X線写真分類は1型17例(38.6%)、2型6例(13.6%)、3型1例(2.3%)、4A型4例(9.1%)、4B型4例(9.1%)、4C型12例(27.3%)であった。
TS画像所見とCR画像所見別の腫瘍径
TS画像の有用性
TS画像は44例のうち23例(52.3%)において、CR画像では読影が困難な肺がんの発見や見落とし防止に有用であった。特にこの中の7例では、CR画像ではわからなかった腫瘤影をTS画像では陽性所見として捉えることができた。さらに、じん肺胸部X線写真分類別にTS有用例の比率をみると、X線写真上にじん肺所見の少ない1,2型に比べ、多数の粒状影や大陰影のみられる3,4型でTS有用例が有意に多かった。
考察・まとめ
じん肺合併肺がん44症例を対象に、肺がん診断に対するTS法の有用性について検討した。その結果、TS法はCR画像では診断が困難な肺がんの発見や見落としの防止に有用であり、特に胸部X線写真上にじん肺所見の強い例や肺門部や縦隔、横隔膜に重なる非肺野型肺がんの診断に有用であることが明らかになった。現時点では胸部CTが肺がん診断には最も感度の良い検査方法と考えられるが、放射線被曝や医療費負担の点からもTS法の併用によりCT検査の頻度を減らすことができないか、今後の検討課題と考えられる。また、じん肺患者では胸部X線写真上に肺がん以外にも炎症性変化等の異常影が出現することも多いが、今後、TS法はそれらの異常影の発見にもどの程度の有用性があるか検討する必要があると思われる。
「経時サブトラクション法 症例選集」
第1期研究において作成された「新たな画像診断法 経時サブトラクション法」の改訂版として、「新たな画像診断法 経時サブトラクション法 症例選集~じん肺診療の経験を中心として~」を作成した。
肺がんを中心に肺炎や胸水などの新たな16例の症例提示を行い、TS法が肺がん等の新たな異常影の診断に有用であることを解説している。
肺がんを中心に肺炎や胸水などの新たな16例の症例提示を行い、TS法が肺がん等の新たな異常影の診断に有用であることを解説している。